Same time, Two years ago

今日もいつものように駅まで伝言板を確かめに行く
昨日と、一昨日と同じように。
全くきっかり同じというわけではないけれど
たいてい、他に予定も無いときなら来る時間はだいたい一緒だ。
それは、この仕事をあたしが任されたときから変わることない日常。
なら、あの日もそうだったはずだ――

新宿の目抜き通りは春物とホワイトデーがショウウィンドウを飾り
けれども寒の戻りで街往く人は冬物のコート姿という
そんな何処にでもある、いつもの街の風景だったはずなのに
なぜかあたしの眼にはそれが「いつも」じゃなく映った。

今日は3月11日なのに、何で街はいつもと変わりないのだろう。

2年前のちょうどこの日このとき、ここで何があったかを
あたしは今もはっきりと覚えている。
いつ止まるともしれない、おそらく多くの人にとっては
今まで生きてきた中で最大の揺れに慌てふためき、恐れおののき
改札からあふれ出した人波は動物としての本能なのか
地上を、光ある方を目指して渦巻く。
押し寄せた黒い波は街へと吐き出されたものの
そこもまた、総てが動きを止めてしまっていた。

タクシーやバスを待つ群れは、さっきまですぐ傍にあった
生命の危機への緊張感か、それとも自分の領域を
侵犯されていることへのストレスか
皆一様にハリネズミのようにピリピリとし合っていた。
この未曾有の状況の中で、あたしたちは間違いなく一つであり
しかし一様に孤独であった。

あの日が、2011年3月11日の15時前が今はまるで嘘のようだ。
Jamais vu――ジャメ・ヴュ、未視感
あれは現実だったはずなのに、なぜかそのときの記憶の方が
今となっては悪い夢だったような気がする
こんな何事もなく平和な街の中では。

「――よぉ、どうしたんだよ」

不意に声を掛けられた。

「こんなところでボサっと突っ立って」
「りょう――」

あの日、ここまであたしを迎えに来てくれた男
あのときの記憶を共に別け合える相手。
でも彼の眼は飄々として、昨日や一昨日と全く同じで
だから不安になってしまう、やはりあれは夢だったのではと。

「ほら、ぼーっとしてると風邪ひくぞ」

そう言われ触れられた肩から体温が伝わる。
あのとき、ここで抱きすくめられたときと同じもの。
大丈夫、頭は混乱していても体はまだ覚えている
あの日、ここであったことを。

「早く帰ろうぜ。今日くらいはうちにいてやるから」
「何よその『今日くらい』ってのは。
いつもいなさいよ、お金ないんだから」

そのままあたしたちは駅前を後にする。
そういえば、ずっと肩を抱かれたままだったのを気づかなかった。

――あのとき、あなたはどこで何をしていましたか?
それをはっきりと思い出せますか?