2012-11-01から1ヶ月間の記事一覧

衣通姫

「あ、撩」帰り道、アパートも近くなり辺りは繁華街から 都会の中の住宅地へと移り変わっていた。 晩秋と初冬のはざまのこの季節になると 日は早々と西新宿の高層ビルの谷間に隠れてしまう。 群青色の空の下、俺たちの足元を照らすのはまばらな街灯だけだ。…

傘すぼめ

そういえばあたしは、撩と手をつないで歩くということがほとんどない。 まだ「仕事上のパートナー」兼同居人という 曖昧な関係だった時期はもちろんのこと それが「公私ともにパートナー///」となっても あいつはそれを見せつけるようなそぶりをすることはな…

イヴの無花果

最初に言っておくけど、わたしに恋愛相談を持ちかけても無駄だと思う。 そりゃ人並みに場数は踏んでいるつもりだけれど 自分の場合、それよりファッションの方が優先されてしまうので 一般の感覚からすればずれていると思われてしまっているだろう。 その代…

1983.4/one-way girl

「かーおりっ、何見てんの?」3年生になって親友は春休み前と変わったような気がする。 最高学年になって、あるものは受験生となり 誕生日が来れば18にもなるのだから 何かしらの変化はあって当然かもしれないけれど、 彼女の場合、もともとボーイッシュな…

automatic wind

朝、半覚醒のまどろみの中、時計に手を伸ばすのが いつしか習慣になっていた。 香が誕生日に贈ってくれた自動巻きの腕時計。 受け取る前に壊されてしまったデジタルに比べて ずいぶん出世したものだ。俺の一挙手一動足をエネルギーに変えて回り続けるそれは …

1993.5/とんだとばっちり

《SIDE M》いつものようにドアベルを鳴らして入ってきたのは 久々に顔を見せるかつての常連だった。 いや、久々といってもほんの数日ぶりだったかもしれない。 でもその数日の間にあった出来事は、その前後を くっきりとした境界線で仕切るのに充分だった。…

恋に酔っぱらって

お隣さんほどではないけどけっこう外で飲み歩くことは多いものの たまには部屋で気の置けない近しい人とグラスを交わすのもいいものだ。 もっとも、あまり近すぎる相手というのもまた面倒ではあるが。「あーあ、どっかいい男いないかしら」酔いが回ると口癖…

冴羽商事の冬支度

「たっだいまぁ〜」ここ数日一気に進んだ寒さにもっこりちゃんも足を止めたのか あまりはかばかしくなかったナンパを切り上げ、アパートに戻ると 香が梱包材に梱包されていた。いや、ホントの話。 俗に言う『プチプチ』というやつだ。 その巨大なシートとリ…