2018-01-01から1年間の記事一覧

もう負けないよ

相棒の成長は、組んでる側としても嬉しいことではある。 けど――「いやぁ、香ちゃんのおかげだよ」 「帰ったら香さんによろしく言っといてね」そんな声をあちこちで聞くたびに 無性に腹の中がもやもやするというか――今ではすっかり、出入りのヤクザを追っ払う…

El Fuego en el Alfaque

そのとき彼らは、テレビが映し出す惨状に目を奪われた ――そのうち一人は視力を失って久しかったが 見えていた頃の習慣と、正面を向いた方が よりそこから聞こえる音をはっきり耳にすることができる という理由からだろう。昼下がりの、喫茶店にとってはそれ…

彼が猫を嫌いな理由

――ぎゃあ、ぎゃあ 赤ん坊と“聞き紛う”ような声が外から響く これが本物の赤ん坊ならどれだけ良かったことか だが春先のこの時期はそうではない。 それがいつもの猫の鳴き声以上に俺の嫌悪感を掻き立てるのは 天敵が今以上に殖える合図だから、というだけでは…

Pain−Killer

日本の男性とアメリカ人との違いはいろいろあるけれど そのうちの一つが「男子、結構厨房に入る」ということだろう。 ハリウッドのロマンティックコメディでは、よく 男女がキッチンで並んで一緒に料理を作るようなシーンがあるけれど それが私たちカップル…

終わりのない傾き

人探しなんてスイーパーの仕事じゃねぇ、ってのは いったい何年言い続ければ判ってもらえるのだろうか。 それでもまだ美人探しならモチベーションも上がるが その前に「将来の」が付いてもなぁ…… 本当に美人になるかどうか保証は無いだろうし。けれども10代…

【63/hundred】ひとづてならで

いまはただ 思ひ絶えなむ とばかりを 人づてならで 言ふよしもがなアスファルトを叩くように降りしきる雨が 血の跡を洗い流していく。 こんな嵐の夜ではなかったら、きっと ヘンゼルとグレーテルのパン屑のように 地面に残る赤黒い染みを追っていけば 容易に…

【72/hundred】たたずもあらなむ

高砂の をのへの桜 咲きにけり 外山のかすみ たたずもあらなむ見上げれば桜の花が満開を迎えようとしていた。 見慣れたソメイヨシノよりやや小ぶりのその花は 花弁の端に行くにしたがって、グラデーションのように 淡い薄紅が次第に濃さを帯びてくる。その様…

Groom's Blue

ニワトリが先か卵が先かという喩えがあるが 言葉に関して言えば、その言葉が指し示す 物なり現象なりが先にあって 後追いでその名がつけられる というのがほとんどだろう。なので「マリッジブルー」という言葉が生まれる以前から 結婚を前にした男女はあれこ…

2000.2/それが あたしだから

ティータイムのお客が去って、一息ついたCat's Eye 今はカウンターにいる香さんとひかりちゃん その横にちょこんと座っているうちの鴻人だけ。 溜っていた食器洗いも片づいたし わたしもようやくコーヒーの一杯も飲めそうだ。 何しろ、今日は寒かったからか …