El Fuego en el Alfaque

そのとき彼らは、テレビが映し出す惨状に目を奪われた
――そのうち一人は視力を失って久しかったが
見えていた頃の習慣と、正面を向いた方が
よりそこから聞こえる音をはっきり耳にすることができる
という理由からだろう。

昼下がりの、喫茶店にとってはそれなりの稼ぎ時
それでもカウンターの内側の主夫婦と
そこに向かい合う常連の一人にとっては
全く別の時間が流れているかのようだった。

おびただしい噴煙を上げる山
その煙と同じ色に染まり、静寂に包まれた村

3人にとって、文字どおりの“灰色”一色に
塗りつぶされる前の光景は
かつて目にした景色であり、少なくとも
それに連なる風景だったはずだ。
その懐かしい風景が、今や変わり果てた姿で
まざまざと映し出されていた。

地球の正反対の、あたしたちにとっては
「忘れ去られた」貧しい小さな国
それでも同じ火山国の住人にとっては
このような光景は決して他人事ではなかった。
あたしだって同じような映像を
国内ニュースで何度も目にしてきた。

けど海坊主や美樹さん、そして撩にはそれは
自らの身に降りかかったことに等しかった。
カメラが映す逃げ惑う人々の中の一人は
かつての戦友の家族かもしれないし
懐かしい旧敵の友人かもしれなかった。
その彼らが今こうして噴火に怯えている――
けれども地球の裏側では如何ともしてやれない
その現実は、きっと身を裂くように辛いはずだ。
なのにあたしは、その痛みを同じように感じることはできない――

カウンターの上、堅く握られた撩の拳に
そっと手のひらを被せる。
撩は一瞬、意外そうな眼を向けたが
あたしの手をもう片方の手で覆った。

それはあたしにとって決して『対岸の火事』じゃない。
かといって、もちろん隣が燃えているほどの
切迫感は悔しいけど感じることができないのだけど。
云うなればそれは『中州の火事』
撩にとっての「我が事」ならば、もちろんそれは
あたしにとって“他人事”ではないのだから。

もちろん今は何もすることができない
ただ心を寄せること以外は。
でも、遠い地球の反対側にあなた方のことを
我が事のように思う人がいる、そのことが
彼らにとっての支えになると信じて。

グアテマラ・フエゴ山噴火による死者65人に 170万人に影響 写真12枚 国際ニュース:AFPBB News