2012-02-01から1ヶ月間の記事一覧

おひとりさま上手

こう見えて、どんな相手とでも巧くやっていけるのはあたしの数少ない特技だ。 普通の同年代の女性はもちろん、歌舞伎町のキャバ嬢 二丁目のオネェさまがた、そして泣く子も黙るおヤクザさんたち どんな席にも溶け込んで、気がつけば差しつ差されつになってし…

Madame/Mademoiselle

「聞いたぜぇ、ブロンド美人に振られたんだって?」その話を聞きたいがために、歌舞伎町中を探し回ったのだ。 同じくブロンドの悪友は顔も見られたくないと視線をそらす。 隠そうとした頬には今も真っ赤な手のひらの跡が残っていることだろう。「そりゃあな…

1994.2

ここに足を踏み入れたのは、いったいいつ以来だろうか。「いらっしゃいま――、あら、お久しぶりですね」そう言われて、あの頃のように余裕一杯で微笑み返すが 内心は当時とは全く正反対だ。 虚勢を張って、それがバレやしないかとびくびくしている。 ほら、あ…

Vintage

見慣れないしぐさに思わず目が釘付けになった。 外から帰ってきた撩が、ヒップポケットから 二つ折りの財布を抜き出したのだ。「あれ、あんた財布持ってたの」いつもポケットにじゃらじゃらと小銭を入れては そのまま洗濯に出していたから てっきりそんなも…

Saving All My Love For You

歌姫が死んだ。 死因については未だはっきりしたことは判っていないが 状況からしておそらくオーヴァードーズ(薬物の過剰摂取)だろう 彼女の元夫も、そして彼女自身も薬物常用の過去があったのだから。テレビの追悼ニュースでは必ずバックに数々のヒット曲…

NOISE

「どーしたんだよ、その大荷物」コーヒーを飲みながら優雅に一服していた撩が 駅の伝言板から帰ってきたあたしを見て目をまん丸くした。サエバアパートはいわゆるポスティング業者にとって恰好の餌場のようだ 外玄関を入ってすぐにずらりとポストが並ぶ そこ…

花鳥風月

リビングの窓から見上げれば、群青色の空に月が浮かんでいた。 下弦に近づきつつあるそれはすでに寝待月だろうか 東の地平線上にもビルが立ち並ぶこのアパートからでは 夜半近くにならないとその姿を拝むことはできない。 香は今日は夜の街に呼び出しをくら…

Shotgun Marriage

Cat'sが他の喫茶店と違うのは普段はテレビをつけっぱなしにしていないところだ。 BGMはマスターの趣味のクラシック(相当枚数を持ってるらしい) それが会話を邪魔しない程度に控えめに流れているから 落ち着いた雰囲気でコーヒーとおしゃべりを楽しめる…

添い遂げる覚悟

香が真剣な眼をして睨みつけているのは敵ではなかった。 冬物一掃大セール¥1,000也のショートブーツ ちなみにここも慣れ親しんだ庭・新宿ではない 水産物、そして靴の安売りで知られる上野・アメ横。 新宿周辺をはじめとする山手線西側界隈で 目ぼしいもの…

【45/hundred】みのいたづらに

あはれともいふべき人は思ほえで 身のいたづらになりぬべきかな 「りょう……」目の前の相棒は安堵を飛び越えて すっかり脱力しきっていた。「お前ってやつは、いったい何度 俺の寿命を縮めさせれば気が済むんだ」死期が3年ぐらい早まったと言いたいのだろう…