2013-01-01から1年間の記事一覧

Chronicle of 2013:12.24/プロメテウスが死んだ朝

「そういやAKB48って、初めて聞いたとき なんか引っかかったのよね」藪から棒に香がそう切り出した。 確かに。あの世知に長けたヒットメーカーのことだ もはや確信犯として、判る奴にはぎょっとするような まさに『地雷』を埋め込んでのネーミングに違い…

Chronicle of 2013:9.17

いったいいつの間にベッドから抜け出しやがったのかと 思ったら……いた。リビングのテレビの前。 そりゃ昔は俺の腕の中から抜け出そうと思ったら 返り討ちにしてあと2,3時間はシーツに縫い止めてたさ。 でもそれは女を覚えたてのガキみたいに夢中になって …

愛と戦争は総てが平等

ひかりと秀弥を夜の歌舞伎町で見かけても オレは不審に思わないだろう。 確かに二人はまだ未成年で本来そんなところに そんな時間にいてはいけないはずだが ひかりは小さい頃から冴羽さんに連れられての 夜遊び歴=年齢の強者だし、秀弥は そんな彼女の(父…

これ以上ない悪夢

目が覚めたとき、そこが薄暗いことに心から感謝した。 豆電球とブラインドの間から洩れる遠くのネオン いつもは真っ暗だと怖くて眠れないくせに 今は明るい方が怖かった、こんな真夜中 さっきまでの夢の続きのような気がして。「どうしたんだ、ひどくうなさ…

もしそこに彼らがいたなら

放課後、伝言板を見に来たら変な男が目についた。 一見、気配を隠しているようでいて 「俺は今ミッション中なんだぜ」感が見え見えで TVでよくやっているガチ鬼ごっこゲームでは 自信満々でいて真っ先にハントされてしまうような。 どうせ張り込むんだった…

1995.7/nothing but love

「はぁっ、これで一安心よね」店で流していたFMの合間のニュースに 子連れの常連客が安堵の溜め息を漏らした。「そうねぇ……」 「だってウチの場合、他人事じゃないもの。 もしミックの身に何かあったとき 子供抱えた女が乗り込んで来てみなさいよ。 まして…

cat person, but...

「やーん、かわいい〜♪」と相好を崩しているのはもちろん撩ではなく「このまま持って帰りた〜い!」無論、その対象がいわゆる「もっこりちゃん」であるはずもなく「だったら買っちゃえばいいのに」 「それができないからここにいるんですよぉ、香さん」ゲー…

1992.11.9/ツキガ キレイデスネ

すっかりこんな時間になっちまった。 ある統計によれば満月の夜は凶悪犯罪が他より多いとのこと。 「男は狼なのよ」という古い歌はあながち嘘でもなかったようだが 今夜ばかりは「女は狼なのよ♪」だったようだ。まぁ、俺たちが依頼を受けてマークしていた女…

【4/hundred】ふじのたかねに

田子の浦に うちいでて見れば 白妙の 富士の高嶺に 雪は降りつつ初めてそれを目にしたのは、海の上からだった。「おーい、フジヤマだぞー」そう騒ぎ立てる船員にいきなり叩き起こされた。 密航者とはいえ船長以下みな承知のことだったので 船の中では自由に…

私のお母さん

あの撩が珍しく男の人から依頼を受けてきた。 その依頼人というのが、この新宿で風俗関係なんかを 手広くやっている、半分カタギではなさそうな人で どういう風の吹き回しかと最初は不審に思ったものの どうやらあいつはその人にちょっとした弱みを 握られて…

Goodbye My Hometown:appendix

あっちにはBachelor Partyなる習慣がある。 Bachelorとは「独身者」という意味 別名Stag PartyともいうがStagとは牡鹿のこと。 要は結婚式の前夜、明日の花婿が女禁制で 飲んで騒いでの酒池肉林というわけだ。 向こうじゃ定番はストリップなのだが 日本のよ…

upon my life

「なぁ、本当に少佐(メイヨール)についていくつもりなのか?」荷物、といっても戦場の兵士の持ち物は大した数ではないが その一式をまとめて担いだ仲間が野営地を後にしようとしていた。 俺はテントに武器も何もかも置いたまま 煙草をふかしながら手慰みに…

1995.5/いらかの波と

こどもの日、古い言い方をすれば端午の節句でも こうビルが立ち並ぶ都会では鯉のぼりどころではないと 旧友がぼやいていると、仲間内では唯一の一戸建ての 元傭兵の喫茶店主が太っ腹にもポールを貸し出すと言ってきた。 おかげでCat'sの頭上には鯉のぼりが3…

white lie/black truth

「もぉ、しっつこいわねぇ!」と、今日ももっこりちゃんとのキスを夢見たはずが なぜか固いアスファルトとキスする羽目になるばかり。 にしてもバッグのラリアットってのは反則でないかい? あの大きさから衝撃は予想できたが、実際はそれ以上だった いった…

way of the beast

「……どうしたの、撩?」なんてあいつが怪訝な顔をして訊いてくるのも当然だ。 部屋に入ってくるなり、半ば力の抜けたように どっかりとソファに沈み込み、虚ろな眼をして紫煙を まるで溜め息でもつくように吐き出したのだから。 咥え煙草のままグラスのバー…

I want a (house)wife.

完璧に寝過ごした。 おそらく寝ぼけ眼で目覚ましを見たときに 1時間前と勘違いしたのだ。 それだったら朝食もとって身支度を整えてから 余裕を持って部屋を出ることができたはずだ。 ああ、それに今日は洗濯器を回す日だ。 なのに、あと20分で出かけなけれ…

1993.10/German measles

この人がここに来るのは珍しいことだった。 いや、用も無いのに来るのはしばしばで そのたびに教授と他愛ない『男子トーク』を繰り広げていた。 けれども、この人が‘用があって’来るのは意外だった。 年に一度の健康診断くらいここでいいからちゃんと受けな…

uncle and nephew

ずっと、小さい頃からその背中を追いかけ続けていた 実の父よりも近い存在として。 もっとも、元総監の祖父の覚えめでたき 一部からの憎まれようも評価の裏返しの 押しも押されぬ特捜課の名刑事である父よりは 「街の顔役に毛が生えた程度」の叔父の方が ま…

underground passage

この時期――あたしの誕生日前後は 「花曇り」だの「花冷え」だの「花散らしの雨」だの 天気の不安定さを表した季語ばかりが辞書に並ぶけれども 今日はとりわけ「春の嵐」だ。 昨日からの雨にさらに強風まで加わって 何も無ければ外に出たくないといった空模様…

あばよ、とっつぁん

こんな夜は一人で素面でいたくなくて 夜の街をふらつきながら、とある店のドアを押した。 喪服姿なのもかまわずに。 このまま真っ直ぐ帰って、マンションの玄関先で お清めの塩をぱらぱらと頭上に振りかける気分にはなれなかった。地下のカウンターだけの小…

Same time, Two years ago

今日もいつものように駅まで伝言板を確かめに行く 昨日と、一昨日と同じように。 全くきっかり同じというわけではないけれど たいてい、他に予定も無いときなら来る時間はだいたい一緒だ。 それは、この仕事をあたしが任されたときから変わることない日常。 …