2012-01-01から1年間の記事一覧

1985.3.29/GOOD NITE, DARLIN'

「それで妹さん、無事帰ってこれたの?」 「ああ、なんとか。今回は撩に助けられたが、それで 香をあの女好きに引き合わせる羽目になるとはな」 「でも、これからも彼と組んで仕事していくんだったら 遅かれ早かれそうなったんじゃないの?」 「まぁ、そうな…

合わせる顔が無い

まだ俺たちが離れて暮らしていて あいつがこっちに戻ってくる前のこと。 それでも一日の大部分を香は俺のアパートで過ごしていた。 寝坊の俺を叩き起こし、朝飯を作り掃除洗濯 冴羽商事アシスタントとしての仕事をこなし 伝言板を確認ついでにCat'sでお茶、…

衣通姫

「あ、撩」帰り道、アパートも近くなり辺りは繁華街から 都会の中の住宅地へと移り変わっていた。 晩秋と初冬のはざまのこの季節になると 日は早々と西新宿の高層ビルの谷間に隠れてしまう。 群青色の空の下、俺たちの足元を照らすのはまばらな街灯だけだ。…

傘すぼめ

そういえばあたしは、撩と手をつないで歩くということがほとんどない。 まだ「仕事上のパートナー」兼同居人という 曖昧な関係だった時期はもちろんのこと それが「公私ともにパートナー///」となっても あいつはそれを見せつけるようなそぶりをすることはな…

イヴの無花果

最初に言っておくけど、わたしに恋愛相談を持ちかけても無駄だと思う。 そりゃ人並みに場数は踏んでいるつもりだけれど 自分の場合、それよりファッションの方が優先されてしまうので 一般の感覚からすればずれていると思われてしまっているだろう。 その代…

1983.4/one-way girl

「かーおりっ、何見てんの?」3年生になって親友は春休み前と変わったような気がする。 最高学年になって、あるものは受験生となり 誕生日が来れば18にもなるのだから 何かしらの変化はあって当然かもしれないけれど、 彼女の場合、もともとボーイッシュな…

automatic wind

朝、半覚醒のまどろみの中、時計に手を伸ばすのが いつしか習慣になっていた。 香が誕生日に贈ってくれた自動巻きの腕時計。 受け取る前に壊されてしまったデジタルに比べて ずいぶん出世したものだ。俺の一挙手一動足をエネルギーに変えて回り続けるそれは …

1993.5/とんだとばっちり

《SIDE M》いつものようにドアベルを鳴らして入ってきたのは 久々に顔を見せるかつての常連だった。 いや、久々といってもほんの数日ぶりだったかもしれない。 でもその数日の間にあった出来事は、その前後を くっきりとした境界線で仕切るのに充分だった。…

恋に酔っぱらって

お隣さんほどではないけどけっこう外で飲み歩くことは多いものの たまには部屋で気の置けない近しい人とグラスを交わすのもいいものだ。 もっとも、あまり近すぎる相手というのもまた面倒ではあるが。「あーあ、どっかいい男いないかしら」酔いが回ると口癖…

冴羽商事の冬支度

「たっだいまぁ〜」ここ数日一気に進んだ寒さにもっこりちゃんも足を止めたのか あまりはかばかしくなかったナンパを切り上げ、アパートに戻ると 香が梱包材に梱包されていた。いや、ホントの話。 俗に言う『プチプチ』というやつだ。 その巨大なシートとリ…

Marry to me!

「郵便届いてたぞ」と言うと同居人は封筒をばさばさとリビングのテーブルの上に広げた。 そのほとんどが月末だからか電話代やカードの明細ばかりだ。 だが、彼の手には一通の白い封筒があった。 リビングのテーブルの上にも同じような封筒。槇村は退院後、私…

tick of the city

「冴羽、これでお前もおしまいだ」 「あの世で後悔するんだな」おーおー、100年前から変わり映えしないセリフ並べやがって。 確かに多勢に無勢とはいえ、これしきの連中にやられるシティーハンターではない。「――社会のダニが」と呟くと、耳だけは達者なよう…

stars in the eyes

東京のど真ん中では満天の星空など拝めそうにない。 見ようとするなら渋谷辺りのプラネタリウムに行くしかないだろう。 だが、こうして本物の星を眺めていると わざわざ偽物を入場料まで払って見に行くのが馬鹿らしくなってしまう。他県警から指名手配され、…

セーラー服を脱がさないで

温暖化のせいかそうでないのか、とにかく年々暑くなっているような気がする。 最近じゃ『真夏日』なんて言葉じゃ間に合わなくて『猛暑日』などと呼ばれるくらいだ。 この調子では『熱帯夜』のさらに上級カテゴリーが生まれそうでぞっとするが 問題は真夏だけ…

gynandromorph

うちのおひぃさまは「虫愛づる姫君」であらせられるようで 夏になると近くの街路樹や小さな公園 さらにはちょっとした遠出になるが虫の宝庫である 戸山公園まで、網を片手に幼馴染みどもと駆け回る毎日だ。 もちろん、教授の屋敷は言わずもがな。 昨年なんて…

Reading Glasses

普段俺が撩のところを訪ねることは滅多にない。 警察官と殺し屋が繋がっていると世間に知られれば身の破滅 もちろんそれは事実なのだが、なおのこと申し開きもできない。 だが、女房など堂々と上がり込んでは用も済んだというのに 妹と延々と女同士の会話に…

禁断の果実

「撩、桃食べちゃって」夕食の後、今日は大人しく飲みに行かない俺の前に 大ぶりの白桃がどどんと置かれた。「桃ぉ?」 「そっ。貰い物だったけど最近、デザートどころじゃなかったから すっかり食べそびれちゃってたの」確かに、ようやく厄介な依頼が片づい…

1983.4/Easter Eggs

イースター休暇といえば、日本では春休みかGWにあたるだろうか。 時期的にはちょうどそのくらいなのだが 「春分の日から初めての満月のある週の日曜」という定義ゆえに 約1ヶ月の幅をもって年によって前後してしまう。 もっとも、そんなことはミッション…

hymenoplasty

シティーハンターへの依頼は何も ボディガードやストーカー退治ばかりではない。 その裏稼業ゆえの人脈を目当てに、いわば素人さん相手に 新宿闇世界イエローページみたいな仕事を頼まれることもある。 例えばパスポートでも免許証でも何でもござれの腕のい…

1991.1.30/once in the Blue Moon

今宵は満月。 冬の夜空に浮かぶ月はどこかキンとして冷たい感じがする。 でもそれが何となしに青く見えるのは 今月二度目の満月だからだろうか。同じ月に満月が2回ある場合、その2度目を Blue Moonというそうだ。 月の満ち欠けは約28日周期だから それとリ…

Morning Ice Coffee

カフェイン中毒の我らが冴羽商事従業員は夏場とて例外ではない。 ただ、暑いなか熱いコーヒーというのはさすがに堪える。 まして節約&省エネでできるだけ冷房カット& つけても設定温度28℃厳守であればなおさら。 そのため、この時期だけのルーティンという…

朝寝坊の理由

「くぉらー、リョオー、起きろーっ!」と怒鳴られるのは何度目だろうか。 通算ではない。今日一日で、だ。 二度寝三度寝を繰り返しているうちにもうこんな時間 今から食えば朝飯ではなく昼飯になりそうだ。「だいたい昨夜だって帰ってきたの いったい何時か…

(s)he

複数の言語をネイティヴ並みに話すことができると ときどき自分が何語で話しているか判らなくなってくるときがある。 もちろん、いつの間にか相手の知らない言葉で滔々と話しているなんて失態は 酔ったときでもやらかしたことはないが、今みたいに 相手も同…

【98/hundred】みそぎぞなつの

風そよぐ ならの小川の夕暮れは みぞぎぞ夏のしるしなりける「おーい、準備はできたかぁ?」 「うん、もう大丈夫……だと思う」思うって何だよ。「チケット持ったか?」前にこれをやらかして、途中でクーパーをUターンなんていう 憂き目に遭ったこともある。…

共通点ひとつ

「わー、ありがとう♪」私室で美術書を鑑賞しているうちに、どうやら寝入ってしまったらしい。 階下から聞こえる同居人の嬉しそうな声に目が覚めた。「かおりぃ、勝手に知らないやつ上げてんじゃねぇだろうな」 「知らない人じゃないわよ、ミックだもの」それ…

高望み 深望み

人間、物事が予想外にうまくいってしまうと欲が出てきてしまうもので。槇村香はその夜、一晩中眠れなかった。 その日の昼間に何かがあったというわけではない ただ、それまで胸の奥に積もり積もっていたものが とうとうその晩、閾値に達してしまったのだ。約…

想い想われ 振り振られ

自慢じゃないが、肌はきれいな方だ。 以前、デパートの美容部員さんにそう言われたから間違いない。 余計なものを塗っていないのが良いそうなのだけれど 普段すっぴんで通しているのは地肌に自信があるからというと 決してそういうわけでもない。 相棒兼師匠…

みんなガンバレ

「えーと、ちょっと待ってねー」と俺の視野外から声をかけるのは香――ではなく、なぜか絵梨子さん。 そう、ここは表参道の一等地にある彼女のオフィス兼アトリエ。 しかも、ここには一緒にいて然るべきの彼女の親友はいない。 いったい何でこうなったかという…

平和の祭典

「なんだ、起きてたのか」それはこっちのセリフだっつーの。 幸いにも夏休み中のオリンピック、 いろいろある競技は観戦しきれないものの 開会式くらいは生で見たかった。 ただのセレモニーと侮るなかれ、後で録画で見られるけれど 聖火をだれが点火したかと…

【R15】飛んで火に入る夏の虫

安普請らしい古びたラブホテルの廊下には あちらこちらから、安物のベッドのきしむ音と あられもない嬌声が漏れ聞こえていた。 いや、これはすでに「漏れる」と言っていい程度ではない。 廊下でさえこうなのだから、それぞれの部屋の中でも 隣室の声が聞こえ…