やっぱり赤は似合わない

一応自分にも贔屓の球団ってのはあるが
どこかの誰かほど何連敗したからって
この世の終わりのように落ち込んだりはしない。
だからもちろんチームが何連勝しようと
それが二桁に伸びようと頬を緩めたりはしないのだが――

「ほーっ」

何でオレが鏡の前で西武の夏季限定ユニフォームの
レプリカに袖を通しているのか、そして
何でその横でひかりがしげしげと鏡と実物とを
見比べているかというと、当然ながら
そもそもの元凶はこいつだ。
ひかりが、贔屓のロッテの期間限定グッズを
買いに行くのになぜか一緒に付いていったら
なぜかこうなっていた。試着だって
別にあいつに唆されたわけではないのに。

最近は、特にパリーグは毎年変わった色の
限定ユニフォームを作ってはファンに売りつけようと
阿漕な真似をしているが(鴻人もさすがに立腹のようだ)
今年、我が西武ライオンズは『炎獅子』と題し
赤を基調としたユニフォームに衣替えしたところ
連勝を伸ばし続けている。
まぁそれは確かに嬉しい。野球好きだったら
朝刊のスポーツ面を開いて、贔屓球団の勝利に
ほんの僅かでも心が弾まないわけがない
すでに結果は前日の内に知っていたにしても。
でもまさか、自分がそこまで浮かれているとは思わなかった
自ら進んで赤ユニを試着してみるほどに。

「やっぱ背番号は20?」
「やめろよ、オフクロの旧姓じゃねーか」

ただでさえ「会社」でオヤジが「野上家の入り婿」
って言われているんだから(戸籍姓は変えたのに)

「でも――」

服のセンスはそれほど良いというわけではないが
試着の際の「物言う鏡」としてこの従妹を信頼はしている
オレの服の好みもきちんとわきまえているのだから。
それはお互い様だが。

「やっぱ似合ってないな」

自分でもそう思った。
もともと、男にしては色は白い方だ。
色白にもいろいろあるが、どちらかといえば
血色の無い方の色白で、目つきの悪さも相まって
以前、所用で黒いスーツを着たときには
こいつにさんざん「ドラキュラ」だの
「殺し屋」だと言われたものだ――
おいおい、お前のすぐそばにいる本物の殺し屋は
それとは全く対極的な配色だが。

そう、ほぼトレードマークと化している
赤いTシャツに(もちろんそれ以外の色も着るときはあるが)
淡いサックスブルーのジャケットを大抵引っ掛けている。
生まれた頃から見慣れているというのもあるが
それらが軽く日に焼けた肌によく映えているのだ。
――どうやら、俺の肌色に原色の赤は似合わないらしい。
その結果に少しほっとしている自分がいた。

こっちは生まれる前から、新宿に蔓延っている噂がある
オレの父親は槇村秀幸ではなく――冴羽撩ではないかと。
オフクロが結婚前から撩とは親しく
もしかしたら男女の関係だったんじゃないかと
この街の“事情通”は勘繰っているのだ、そして
その関係は結婚した後も続いていたんじゃないかと。

実際、オヤジと同じくらい「撩に似ている」と
言われることが多い。内心、彼に憧れているところもあるのだが
そこまでの頻度で言われてしまうと
オヤジに申し訳なく思ってしまう。それと同時に
自分でも己の出生に疑念を覚えてしまわずにはいられなくなる。
これで血液型がありえないものだったら
笑い飛ばせるのだろうけれど
オヤジがA、オフクロがB、そして撩がABで
オレはというと――同じAB。ありえてしまう。

それでも当事者は皆、香さんも含めて
根も葉もない噂だと笑い飛ばしている。
オヤジも「お前だって、父さんと
香叔母さんのことを似てるって思うだろう?」と。
なら俺が撩に似るのも当然なのかもしれない
「三つ子の魂百まで」ともいうが、その「三つ子」までの間
実の親より撩と香さんの傍にいた時間の方が長いのだから。
(だからといって「わたしが知ってるのは
あの人だけよ」と息子の前で言ってしまえるのは
母親としてどうかと思うが)

だが、本人たちにとっては確たる事実だとしても
オレにしてみれば確かめる術は無いのだ。
DNA鑑定なんてしようものなら、どこかに
撩の検体のデータが残ってしまうことになるのだし。

だから、見た目というDNAに左右されるところが
大きい部分で、撩に似ていないという事実が
判明した、というわけだ。
撩にはおそらく似合うであろうこの赤ユニが
オレにはちっとも似合わないということは。

「やっぱ秀弥は黒だよなぁ」

うん、自分でもそう思う。現に今
このレプリカユニフォームの下に着ているのは
黒のTシャツだし――っておい

「だーかーら、一緒にこれ着て
所沢のライトスタンドで跳ねよーぜぇ!」

と手に持って微笑むのはロッテのビジターユニ
(ちなみに西武ドームは3塁側がホームベンチだ)

「やめろ、悪魔に魂を売る気は無い!
悪魔は謎の魚にも劣るっ」

だったらお前が着りゃいいじゃねーか
この赤ユニを。きっと似合うと思うぜ
正真正銘、冴羽撩の実の娘なんだからさ。

【チーム13連勝一問一答】先発の西武・野上「お腹が痛かった」 - 野球 - SANSPO.COM(サンスポ)