バカ
ニワトリが先か卵が先かという喩えがあるが 言葉に関して言えば、その言葉が指し示す 物なり現象なりが先にあって 後追いでその名がつけられる というのがほとんどだろう。なので「マリッジブルー」という言葉が生まれる以前から 結婚を前にした男女はあれこ…
前後へと滑るように動くもっこりヒップ ソファの背もたれの向こうに、それだけが まるで水面から浮かび上がったかのように揺れていた。 いつものようにリビングで“芸術鑑賞”に耽る昼下がり おかげで掃除機の轟音も耳に入らないほど 夢中になってしまっていた…
一応自分にも贔屓の球団ってのはあるが どこかの誰かほど何連敗したからって この世の終わりのように落ち込んだりはしない。 だからもちろんチームが何連勝しようと それが二桁に伸びようと頬を緩めたりはしないのだが――「ほーっ」何でオレが鏡の前で西武の…
――夏ともなれば渚を駆け抜け「ねーねー、そこのビキニのもっこりお嬢さんたちィ サンオイルか日焼け止め、撩ちゃんが 塗り塗りしてあげよっか♪」 「くぉらぁ、リョオ! ビーチの風紀を乱すなっ!」「撩ちゃんもっこりー♪」を連発する渚のオオカミ野郎と (間…
最近ヒカリの様子がおかしい。 といってもいくら幼馴染みの父親とはいえ オレとあの子の付き合いは今やほぼ 「お向かいさん」ということに尽きてしまう。 だからせいぜい街で偶然見かけるか 行きつけのカフェで行き会うかぐらいなのだが ここ数日、ずっと表…
「カオリ、それで来週京都に取材に行ってくるんだけど お土産は何がいいかな?」そう色目半分であいつに話を振ってくるのもいつものこと これがもう四半世紀も続いているのだから いちいち目くじらを立てるのも面倒なだけだ。 Cat'sのカウンターでの日常茶飯…
砂浜にひとり腰を下ろす。 目の前に広がるのは広々とした大海原 そして左手前方には砂州で陸と結ばれた 緑の小島があるはずが、今日はあいにくの天気 もやで霞んで、姿を見せてはくれない。 ――あーあ、ヌードの弁天様にも嫌われたか。この砂浜にも、ほんの数…
「――○○××、○○××でございます」穏やかなコーヒーブレイクを一撃で破壊するウグイス嬢の美声。 まだ衆院や都議選と比べればマシな方だが (区議選となるとノイローゼになりそうだ) 参院でも東京都全域で31人も出ている。 まさに「犬も歩けば選挙宣伝カーに当…
「これでとうとうあたしも人のこと 言えなくなっちゃったわね」店のテレビで流れるニュースに そんな言葉が思わずこぼれた。「あれ、美樹さん新しいのにしたんだっけ」そんな半分独り言のようなあたしの言葉に 反応したのは、ほんの数ヶ月前 「人のことを言…
「すいませーん、ちょっといいですか?」と通りでこの俺に声をかけるとは、いい度胸だ。 歌舞伎町の客引きならともかく 街頭インタビューやキャッチセールスも、俺と目が合うと 次の瞬間、まずいのを見つけてしまったとばかりに 視線を逸らし、次の獲物を探…
【Caution ※ 注意!】 ブツブツしたものを目にするのが嫌いな方、苦手な方は 続きを読まないことをお勧めします! その症状が悪化ないしは固定化され こじらせてしまいかねませんので…… 事実、店主自身がそうなってしまいました【泣】
「バタバタしてて新年会やりそびれちゃったけど」 といつもの面子が集うのは、いつものCat's Eye……ではなくて そこは一次会、ただ今すっかり出来上がったメンバーが 狭い部屋の中で膝を突き合わせているのは 最近、歌舞伎町でも勢力を拡大しつつあるカラオケ…
この仕事は依頼人を家に泊めることも多い というかほとんどだ。だからひかりが生まれてからは そういうときは、あの子を美樹さんや教授のところに 泊りがけで預けて面倒を見てもらっていた。 でも今はケースバイケース、さほど危険が無さそうな場合は 家でひ…
「いらっしゃいま――あ、冴羽さんじゃないっすか」意外な客が来たものだ、といってもここはキャバクラ 彼は「新宿の種馬」、当然の取り合わせだ。 が、ツケをため込んでいるのが香さんにばれて 歌舞伎町出入り禁止になっているというウワサ。 それくらい知っ…
新宿っていやぁ良くも悪くも 毎日がお祭り騒ぎみてぇなとこだが、それが ここしばらくは祭りが終わっちまったような 気の抜けた空気が街を覆っているようだった。 もちろん老若男女、堅気にチンピラ お上りさんも地元っ子もいつものように 通りに繰り出しち…
帝王切開、の語源はかのローマのカエサルが それによって生まれたから、というのは俗説だそうだ。 じゃあ本当のところはどうなんだと言われると 話せば長くなるのだが、その俗説が ラテン語から英語やドイツ語、さらには日本語と訳され 名は体を表さない名前…
ひかりと秀弥を夜の歌舞伎町で見かけても オレは不審に思わないだろう。 確かに二人はまだ未成年で本来そんなところに そんな時間にいてはいけないはずだが ひかりは小さい頃から冴羽さんに連れられての 夜遊び歴=年齢の強者だし、秀弥は そんな彼女の(父…
放課後、伝言板を見に来たら変な男が目についた。 一見、気配を隠しているようでいて 「俺は今ミッション中なんだぜ」感が見え見えで TVでよくやっているガチ鬼ごっこゲームでは 自信満々でいて真っ先にハントされてしまうような。 どうせ張り込むんだった…
完璧に寝過ごした。 おそらく寝ぼけ眼で目覚ましを見たときに 1時間前と勘違いしたのだ。 それだったら朝食もとって身支度を整えてから 余裕を持って部屋を出ることができたはずだ。 ああ、それに今日は洗濯器を回す日だ。 なのに、あと20分で出かけなけれ…
この人がここに来るのは珍しいことだった。 いや、用も無いのに来るのはしばしばで そのたびに教授と他愛ない『男子トーク』を繰り広げていた。 けれども、この人が‘用があって’来るのは意外だった。 年に一度の健康診断くらいここでいいからちゃんと受けな…
まだ俺たちが離れて暮らしていて あいつがこっちに戻ってくる前のこと。 それでも一日の大部分を香は俺のアパートで過ごしていた。 寝坊の俺を叩き起こし、朝飯を作り掃除洗濯 冴羽商事アシスタントとしての仕事をこなし 伝言板を確認ついでにCat'sでお茶、…
《SIDE M》いつものようにドアベルを鳴らして入ってきたのは 久々に顔を見せるかつての常連だった。 いや、久々といってもほんの数日ぶりだったかもしれない。 でもその数日の間にあった出来事は、その前後を くっきりとした境界線で仕切るのに充分だった。…
「たっだいまぁ〜」ここ数日一気に進んだ寒さにもっこりちゃんも足を止めたのか あまりはかばかしくなかったナンパを切り上げ、アパートに戻ると 香が梱包材に梱包されていた。いや、ホントの話。 俗に言う『プチプチ』というやつだ。 その巨大なシートとリ…
温暖化のせいかそうでないのか、とにかく年々暑くなっているような気がする。 最近じゃ『真夏日』なんて言葉じゃ間に合わなくて『猛暑日』などと呼ばれるくらいだ。 この調子では『熱帯夜』のさらに上級カテゴリーが生まれそうでぞっとするが 問題は真夏だけ…
イースター休暇といえば、日本では春休みかGWにあたるだろうか。 時期的にはちょうどそのくらいなのだが 「春分の日から初めての満月のある週の日曜」という定義ゆえに 約1ヶ月の幅をもって年によって前後してしまう。 もっとも、そんなことはミッション…
「わー、ありがとう♪」私室で美術書を鑑賞しているうちに、どうやら寝入ってしまったらしい。 階下から聞こえる同居人の嬉しそうな声に目が覚めた。「かおりぃ、勝手に知らないやつ上げてんじゃねぇだろうな」 「知らない人じゃないわよ、ミックだもの」それ…
「えーと、ちょっと待ってねー」と俺の視野外から声をかけるのは香――ではなく、なぜか絵梨子さん。 そう、ここは表参道の一等地にある彼女のオフィス兼アトリエ。 しかも、ここには一緒にいて然るべきの彼女の親友はいない。 いったい何でこうなったかという…
まだ二人の間に秀弥くんが授かる前の話。所轄の署長という立場も、一課や特捜と比べたら閑職かもしれないけれど 一人の肩に背負い込む責任たるやそれとは比べものにならないもので いくら定時で上がれるとはいえ、退職したばかりの父に実家に呼び出され 拝聴…
公園デビュー、なんて言葉があると知ったのはいつぐらいだろうか。 おそらくまだその頃は、自分がその当事者になるなんて 夢にも思わなかったはずだ。 でも、まさかまさかの有為転変でこんなあたしでも ママになることができたのだけど、 公園の前にデビュー…
「あちゃ、氷作ってなかった」そう香が声を上げたのは、夜の11時も過ぎた頃。 家飲みのときは市販のロックアイスではなく 普通に冷凍庫で作った、白くくぐもった氷を グラスに5,6個まとめて入れている。 確かに雰囲気は出ないが、 「透明だろうが白かろう…