uncle and nephew

ずっと、小さい頃からその背中を追いかけ続けていた
実の父よりも近い存在として。
もっとも、元総監の祖父の覚えめでたき
一部からの憎まれようも評価の裏返しの
押しも押されぬ特捜課の名刑事である父よりは
「街の顔役に毛が生えた程度」の叔父の方が
まだ超えやすい目標だと思えたからかもしれないけれど。
でも、その考えはそろそろ捨てなければならないだろう。

とにかく、小さい頃から何でもそのしぐさを真似ていた。
おもちゃの銃(もちろんパイソン)で
密かに銃さばきの練習をしたりもした。
さすがに赤いTシャツを大っぴらには着られなかったが
煙草をくゆらすその横顔に、自分も大きくなったら
同じブルズアイのパッケージのを吸うんだと固く心に決めて
シガレットチョコで一人その気になって悦に入ったりもしていた。

何より――あのはねっかえりの従妹と
行動を共にすることが多かったから
一緒になって人質になったことも数知れず。
そのたびに颯爽と現れて並み居る敵を打ち倒し
オレたちを助け出すその姿に
特撮ヒーローに憧れる年代の子供であれば
惚れ惚れとしないはずがなかった。
そして、いつかは自分も――と思い続けていた。

でもまさか、その機会が今訪れるとは思ってもみなかった。

「お疲れさん」

そう言って、クーパーに寄りかかって立つのがやっとのオレに
差し出されたのは一本の缶コーヒー。もちろんブラック・無糖だ。
遠くではさっきまで俺たちが大いに掻き回した
敵のアジトの混乱ぶりがここからもよく伝わってくる。

「ああ、あんがと」

それをさも平気な振りして受け取るが、やけにプルタブが重いのは
スチール缶だからだけではないだろう。

「文明国のガキに人殺しの道具は持たせられない」
と、スタングレネードを持たされただけの無謀な切り込み作戦。
普段は射撃場で撃たせてもらってるじゃないか、と噛みついても
それとこれとは話が別と、いかにも「大人の対応」だ。
もっとも、パイソンを派手にぶっ放す撩が実は囮で
その隙に俺が敵の本丸を陥すという
重要な役回りを果たさなければならない。
それだけにプレッシャーは期待と同じくらいに
押し潰されそうなものであったし
果たし終えた今となっては、本当に自分が
それをこなせたのかと、まるで嘘のようだ。

いつかは香さんやうちの両親のように
撩と同じ舞台で戦いたいとずっと願っていた。
その夢がようやく叶ったのだ。
憧れ続けた場所に立つことができたのだ
そこがたとえ硝煙と、そして血の匂いが立ち込めていようとも。

だが「デビュー戦」でそうそううまくいくわけがない。
どこかで油断があったのだ、あまりにもそれまで
思いどおりにいき過ぎてしまっていたから。
そこを見逃さなかったのが、さすがに向こうもプロというもの。
だが撩はそこで手を差し伸べなかった
もしもこの先、この道を進み続けたいのであれば
自分で何とかしてみろと。

そして、何とかしたから今こうしてここにいられるわけで
もちろんいたたまれない気持ちはあった。
もしそこでどうにもならなかったら
撩の計画自体が失敗に終わってしまっていたのだから。
だが、

「よくやったよ、初陣にしては」

くしゃりと、子ども扱いするかのように髪を撫でられた。
いつもだったらその手を振り払っていただろうが
あえてそうしなかったのは、もう疲れ果てて
その気力も無かったから、だけではなかった。
それはまるで子供の頃、両親や香さんや、撩に
褒めてもらったときの得も言われぬ誇らしさ。

だが、その手は不意に引っ込められた。
そして、

「ほら、さっさとずらかるぞ」

と言うとクーパーの運転席側に回り込む。
その後ろ姿がやけに大きく見えた。
――撩は、この修羅場を何度もくぐり抜けてきた
オレはまだそのスタートラインに立ったばかりだ
撩を追い越し、追い抜くための。

きっとオレが助手席に乗り込まなくても
勝手にエンジンをかけて、そのまま発車していただろう。
置いてけぼりをくらってはまずいと
重たい身体をさも軽々と座席にねじ込んだ
これからもその背中を追いかけ続けるためにも。

http://sportsnavi.yahoo.co.jp/sports/baseball/npb/headlines/article/20130406-00000008-spnavi