シリアス

【63/hundred】ひとづてならで

いまはただ 思ひ絶えなむ とばかりを 人づてならで 言ふよしもがなアスファルトを叩くように降りしきる雨が 血の跡を洗い流していく。 こんな嵐の夜ではなかったら、きっと ヘンゼルとグレーテルのパン屑のように 地面に残る赤黒い染みを追っていけば 容易に…

who is without sin among you

ある村が焼かれた。 ジャングルの中にある、先住民の小さな村 そこを陥したところで戦略上の何のメリットも無いような 小さな村――ただ一つ、見せしめ以外に。 その村は反政府ゲリラに協力的だった ――彼らの掲げる理想に共鳴してだったのか それとも、ただ彼…

worthy of Champion

あの冴羽撩に決闘を挑む者が現れた というのは裏の世界ではもはや日常茶飯事。 だが、わざわざ見届け人を付けて、という 中世の騎士もかくやという古式ゆかしい 威風堂々たるやり方で、となると 近頃はあまり聞かなかったように思う。でも、その「見届け人」…

White Flag

「そういやお前、SNSの写真 トリコロールにしてるんだって?」バーでのバカ話ついでに、そう元相棒が切り出した。 といっても良くも悪くも強引'g my wayなこいつに 他人の“リア充”なプライヴェートを 覗き見するような趣味はあるとは思えなかったのだが、…

Our Endless War

戦場において、敵の矢玉に斃れることは もはや宿命といっても過言ではない。 それゆえ、もし不幸にもそのような事態に陥っても 当の本人は従容としてそれを受け入れうるだろうし (実際のところどうなのか、向こう岸からは 戻ってこられようがないので判らな…

Si Vis Pacem, Para Bellum

――ああ、今日もだここが昼も夜も眠らない街・新宿である以上 その中心である駅前は一日中ごった返しているのは いつものことであった。ただ、ここ数日 その空気がぴりぴりとしているのは 毎日伝言板を見に通っていれば判ることだ。 それが脛に傷持つ連中の一…

Light of Life

私が育った場所と、ここでは 生命の価値がずいぶん違うような気がする。あの国では常に死が自分たちの近くにいた。 戦争だけではない、貧しさゆえに 病に倒れればそれは生命の危険を表していた 子供も、働き盛りの大人も。でも、この国では違う 世界に関たる…

collective self-defense

「かおり……か……」ベッドの上、撩がゆっくりと瞼を開けた。 いつものアパート最上階の寝室ではなく 教授のラボの殺風景な病室。 それもまたよくある光景ではあった。が、「香っ!」次の瞬間、彼はばね仕掛けの人形のように 勢いよく上体を起こした。 だが額に…

51 years ago

「お父様、お父様!」夜もまだ明けやらぬうちに 末の娘が寝室に飛び込んできた。 手には古風な文のようなもの。「部屋の、机の上に、これが……」上の姉たちはみな嫁いで家を出ていったが この子もいつ縁談があってもおかしくない年頃だ。 なのに、この慌てぶ…

Chronicle of 2013:12.24/プロメテウスが死んだ朝

「そういやAKB48って、初めて聞いたとき なんか引っかかったのよね」藪から棒に香がそう切り出した。 確かに。あの世知に長けたヒットメーカーのことだ もはや確信犯として、判る奴にはぎょっとするような まさに『地雷』を埋め込んでのネーミングに違い…

私のお母さん

あの撩が珍しく男の人から依頼を受けてきた。 その依頼人というのが、この新宿で風俗関係なんかを 手広くやっている、半分カタギではなさそうな人で どういう風の吹き回しかと最初は不審に思ったものの どうやらあいつはその人にちょっとした弱みを 握られて…

upon my life

「なぁ、本当に少佐(メイヨール)についていくつもりなのか?」荷物、といっても戦場の兵士の持ち物は大した数ではないが その一式をまとめて担いだ仲間が野営地を後にしようとしていた。 俺はテントに武器も何もかも置いたまま 煙草をふかしながら手慰みに…

uncle and nephew

ずっと、小さい頃からその背中を追いかけ続けていた 実の父よりも近い存在として。 もっとも、元総監の祖父の覚えめでたき 一部からの憎まれようも評価の裏返しの 押しも押されぬ特捜課の名刑事である父よりは 「街の顔役に毛が生えた程度」の叔父の方が ま…

tick of the city

「冴羽、これでお前もおしまいだ」 「あの世で後悔するんだな」おーおー、100年前から変わり映えしないセリフ並べやがって。 確かに多勢に無勢とはいえ、これしきの連中にやられるシティーハンターではない。「――社会のダニが」と呟くと、耳だけは達者なよう…

【R15】飛んで火に入る夏の虫

安普請らしい古びたラブホテルの廊下には あちらこちらから、安物のベッドのきしむ音と あられもない嬌声が漏れ聞こえていた。 いや、これはすでに「漏れる」と言っていい程度ではない。 廊下でさえこうなのだから、それぞれの部屋の中でも 隣室の声が聞こえ…

僕よりも僕のことを知っている

裏の世界No. 1スイーパー、シティーハンター・冴羽撩 その筋ではあたかも神のように呼ばれているが あいにく俺は神様ではない、ただの人間だ。 自分でも嫌になるような欠点もあれば、スランプだってある。リビングのガラステーブルの上に広げられたのは 武骨…

シティーハンターの敵

16:41 ターゲットを確認「じゃーねー」 「See you tomorrow!ってシュウヤ、 何でお前が帰りも一緒なんだよ!」 「しょーがねーだろ、最近二人とも忙しいんだから」校門で同級生と別れる。 女子生徒一人と一緒に新宿駅方面へと向かう。 ターゲットの自宅は…