white lie/black truth

「もぉ、しっつこいわねぇ!」

と、今日ももっこりちゃんとのキスを夢見たはずが
なぜか固いアスファルトとキスする羽目になるばかり。
にしてもバッグのラリアットってのは反則でないかい?
あの大きさから衝撃は予想できたが、実際はそれ以上だった
いったい何をどれだけ入れればあんなに重くなるのやら。

そうやってこっぴどく振られながらも
どこかにやけた表情を浮かべる俺を
街往く連中は訝しく思うだろう。
あれほど何度も平手打ちをくらっても
ナンパをやめようとしないのは、実は
その痛みに快感を覚える性質に違いないと。
俺だって痛くされるのは好きじゃない。
だが、その感覚に何か満足のようなものを
覚えているのも確かだ。

ナンパを拒むのは、彼女たちが心から
俺のことを疎んじている証拠。
けれども、たとえ誘いに乗ったとしても
本当に俺に対して好意を持っているとは限らない。
お茶やメシだけ奢らせてサヨナラというのは序の口
ホテルに連れ込んでみたら実は美人局、なんてこともありうる。
まぁ、この街で俺をそんな罠にかけようなんざ
怖いもの知らずの素人がやることだが。

たとえ、そんなトラブルもなく事を終えたとしても
それが心からの感情なのかは俺にも知る由はない。
愛がなくても「愛してる」ということは可能だ。
現に俺自身、ただ女の躰を開かせたいがためだけに
耳元で心にも無い言葉を囁いてきた。
I love you, Te quielo, Ti amo, 我愛你....
自分もそうだからと相手を疑うのは悪い癖
だからといっても、繰り返される愛の言葉を
信じることはできなかった。

だが「嫌い」は違う。
人は人に好かれるためなら自分すら偽る。
しかし、自分を偽ってまで人に嫌われようと思うだろうか?
その言葉は、彼女たちの軽蔑の眼差しは
頬にじんじんと響く平手打ちの痛みは
紛れもなく心からの本音の表れ。
その瞬間、真っ直ぐに俺に向き合ってくれたことに
感謝の念すら湧き上がってしまう、
それこそが彼女たちの「愛」なのだと。

思えば、俺もそれなりのステディと付き合ってきたが
付き合い始めの甘い言葉よりも
別れ際の捨て台詞の方がやけに心に残っている。
別に罵ってほしいわけじゃなかった
だから彼女たちの顰蹙をわざと買っていたわけじゃなかった。
ただ、心の赴くままそうしていた結果というだけのこと
どうやら俺は女に嫌われる才能に恵まれているらしい。
死を招く銃弾のひりつくような痛みが
自分の生を最も実感させるように
心に突き刺さるような罵り言葉こそが
俺にとって何よりの愛された証だった。

――だからなのかもしれない
あいつのハンマーを甘んじて受けているのは。
何も好きこのんで男に暴力をふるう女はいない
それがどうやら惚れた相手らしいとなればなおさら。
嫌われて愛想を尽かされかねないとしても
それがあいつの偽らざる本心なのだから。
「大嫌い」という台詞も、たとえ売り言葉に買い言葉であっても
そう思っていなければ口に出せるものではないだろう
あの正直な香のこと。
あいつのとげとげしいほどの本音が
俺にとってはむしろ心地よかった
ふわふわとして、だからこそつかみどころのない
嘘か真か判らない愛の言葉などよりも。

だが、そういった「本音」がしばしば
最後通牒になってしまうのは俺も何度も経験してきたこと。
それでも、これからも俺にハンマーを振るい続けてほしい
嫌というほど罵声を浴びせてほしい
偽りのない本心とともに、
そしていつか、ひときわ強烈な捨て台詞とともに
俺を見捨てて去っていく日が来るまで。