upon my life

「なぁ、本当に少佐(メイヨール)についていくつもりなのか?」

荷物、といっても戦場の兵士の持ち物は大した数ではないが
その一式をまとめて担いだ仲間が野営地を後にしようとしていた。
俺はテントに武器も何もかも置いたまま
煙草をふかしながら手慰みにAK47の整備をしていたところだ。
奴が別の一派に流れるのか、軍に投降するのか
それとも村に帰って大人しくジャングルを耕すのか
知らないし、俺には知ったことじゃない。
もっとも、元ゲリラと知れれば政府軍の連中は
草の根分けても探し出し、連れ去り、拷問にかけ
原隊の内情を死ぬまで聞き出そうとするだろうが。

密林の中で続く軍と反政府ゲリラとの内戦は
いつの間にか俺たちゲリラが劣勢に置かれていた。
そんな中、組織が一枚岩にならなければ
冷酷な傭兵と某超大国がバックにつく政府軍には
到底戦えるはずもないのに、上の連中は政治信条やら
闘争方針の違いとやらで四分五裂しつつあった。
それも奴らの裏工作なのだろうか。
そういった雰囲気は俺たち下っ端にも及び
次々とここを後にするものが続いていた。

「言ってたじゃないか、オヤ――少佐が
起死回生の策はあるって」
「ああ、あれな……」

かつて戦友だった、今まさにそうならなつつある男は
荷物を傍らに置き、俺の横にどっかと腰を下ろした。

「聞いてるだろ、噂は。
最近少佐が見知らぬ連中とつるんでるって」

ああ、それは俺も聞いたことがある。
白衣の男たち――教授以外の――と一緒にいるところを
誰かが見たと。それだけでは何とも言えないのだが。

「それでさ、聞いた話だが少佐
俺達のことを実験台に売るつもりじゃないかって」

勧めた煙草を奴は旨そうにくゆらす。

「売るって、どこにだよ」
「さぁな。KGBかもしれんし
西側の営利企業かもしれない。
ま、学のない俺には関係ない話だが」

そう言って一伸びして、煙草の火を靴底で揉み消すと、

「じゃ、忠告はしたぜ。
自分の身を大事にしろよ」

と、再び荷物を担いでキャンプを後にしていった。
俺だって不安はある、こんな絶体絶命の状況の中
起死回生といってもよほどの手を打たなければ
戦況は変わることはない――よほどの、手。

「――カミカゼでもやらされるっていうのかよ」

そう煙草を吐き捨てる。
だが、俺には少佐――オヤジの言うことを信じるしかなかった。
あのままではジャングルの中で生命を落としていたであろう
無力な幼子の俺を拾い、ここまで育て上げてくれたのだ。
あのときから続く内戦も今ではすっかり変わってしまった。
まだガキだった頃、周囲の大人たちは希望に眼を輝かせていた
暴虐非道の独裁者を倒し、この国に平和をもたらすのだと。
だが今はそんな理想などどこかに行っちまって
ただ自分が今生き延びるためだけに戦うだけになってしまった。
守るべき民衆も、共に戦う同志も関係なく
己一人さえ死なずにいられればそれでいいと。
それでも――オヤジは俺を助けてくれた
文字どおり命懸けで、片足を失いながら。
そんなオヤジの言葉を信じられなくて誰を信じろというのか。
――奴だって、つい最近部隊に来たばかりの男だ。
俺のために生命を懸けようとは思わないだろうし
俺だってそんな奴のためにこの身を危険に晒すつもりはない。

そんな殺伐とした、非情な世界で
誰一人として信じられる者がいないというのは
地獄以外の何ものでもないんじゃないか?
――そして、俺はこれから先ずっと
その『地獄』を彷徨い続けることになる。