リクエストナンバー#18

「バタバタしてて新年会やりそびれちゃったけど」
といつもの面子が集うのは、いつものCat's Eye……ではなくて
そこは一次会、ただ今すっかり出来上がったメンバーが
狭い部屋の中で膝を突き合わせているのは
最近、歌舞伎町でも勢力を拡大しつつあるカラオケボックス。
ちなみに海坊主さんは「こういうのは俺は好かん!」と不参加。

「ひゅーひゅー♪」「Yeah〜!」
「ど〜も、ありがとーっ!」

と残り2人の男性陣の合いの手をバックに
さっきまで小さいステージでロッククィーンよろしく
熱唱してたのは麗香さんで
(でも撩はともかく、ミックはどこで
覚えたんだろう、こんな行儀の悪いフレーズw)

「やっぱ合うなぁ、麗香さんのアン・ルイス」

一緒にマラカスを振ってたかすみちゃんもどこかうっとり。

「まぁ、お似合いというかピッタリというか
ほぼ地だもんね、こういう歌は」
「あら姉さん、それってどういう意味?」
「遊び慣れてる自称ディスコクィーン
でも一皮むけばウブで純情、お人好しってとこかしら」

♪ほーどんみー めをとじーてー とどけーたいー
とかすみちゃんにマイクが渡ったにもかかわらず
主役そっちのけでいつもの姉妹喧嘩が勃発。
あたしと美樹さんが間に割って入ろうとするものの

「ま、姉さんの『桃色吐息』にゃ負けるけど」
「あら、なんのことかしら」
「その一曲で警察のおエライおじ様方もイチコロってウワサよ」

冴子さんの『桃色吐息』……想像するだけで
撩もミックも思わず生唾ゴクリの様子。

「ああ、それね。その一曲だけ歌ってれば
あとはじっと黙ってようが途中で抜け出そうが
お咎めなしってだけよ」

そして颯爽と、次の曲の物憂げな
トランペット風のイントロが始まると
マイクを受け取り、ステージに立った。

「じゃ、誰かご一緒してくださらない?」

これがデュエットソングだということくらい
流行った歌だからあたしだって知ってる。
でもその視線は、台詞とは裏腹に
誰か一人に向けられているような気がした。

「他ならぬ冴子の頼みじゃ断れねぇな」

そうソファから立ち上がったのは、他ならぬ撩だった。

麗香さんが言ったように、冴子さんも警察の付き合いで
こういう宴席にも出なければならないのだろう。
でもきっと、そういう場では歌わない選曲のはずだ。
けれど、あたしたちと一緒だと必ず選ぶ歌
そしてパートナーに選ぶのは、いつも撩。

しっとりとしたメロディーに乗せられただけで
それがどこか大人びた世界に聞こえる歌詞。
それを視線を絡め合いながら歌う二人は
「お似合い」という言葉以外に喩えようがなくて……

♪Oh Do What You Wanna Again
  Oh Do What You Wanna Again

「そういえばこの歌手って、姉弟同士なんですよねぇ」

隣に座るかすみちゃんがそう囁きかけた。
そういえばそうだ、確か。

「だからなんですかねぇ〜」
「何が?」
「あ〜もぉ、香さんっ!」

二人のマイクの声に負けない音量で叫ばれた。

「だって、冴子さんと冴羽さんももしかしたら
義理の姉弟になったかもしれない間柄じゃないですか!」

ああ、そういえばそうだった……
冴子さんの想い人は撩でなく、アニキだったんだから。
そう思い至ると、ステージ上の仲睦まじげな二人も
その距離の近さがどこか違った意味に見えてくるから不思議だ。
その二人は、曲が終わると軽くハイタッチして
揃って壇上から降りてくる。そして、

「じゃあ、次の人〜」

あれ、誰がどういう順番で入れたんだっけ
ここまで大人数だとローテーションも不規則で……
軽快なギターのイントロの、心当たりは

「はいはいはいっ!」

並ぶ膝を飛び越える勢いでステージへと駆け上がる。
すると、

「おい、また俺歌うのかよ」

と撩がUターン。ごめんね、これ男女のツインボーカルなの。
さっきの曲が冴子さんと撩だけの専用レパートリーなように
このグループだけはあたしと撩にとっては譲れないオハコ。
いわゆるデュエットというような色っぽさとは無縁の
痴話ゲンカなノリがあたしたちにはぴったりだから。

「なんか飲み物あるか?
歌ってて喉やられちまっててさぁ」
「カルーアミルクでよければ」
「んな甘ったるいもん」

と言いつつそれで喉を潤し、

「Oh Oh〜 Oh〜 Oh! Oh Oh〜 Oh〜 Oh!」

そう、早くも歌詞が始まる前から出番があるのだ。
そのいつもどおりの息の合ったユニゾンに
それだけでもテンションが高まる。

「――香さん、まだ意味よく判ってないわよね
姉さんと槇村さんがくっつくだけじゃなくて――」
「香さん本人と冴羽さんがくっつかなきゃ
『姉弟』ってのは成り立たないって」