collective self-defense

「かおり……か……」

ベッドの上、撩がゆっくりと瞼を開けた。
いつものアパート最上階の寝室ではなく
教授のラボの殺風景な病室。
それもまたよくある光景ではあった。が、

「香っ!」

次の瞬間、彼はばね仕掛けの人形のように
勢いよく上体を起こした。
だが額には包帯、そうでなくても
急に頭を持ち上げると立ちくらみの元だ。
暗くなる視界に額を押さえながら俯く。
その一瞬の暗転の前に撩の目の中に飛び込んできたのは
タンクトップにカーゴパンツ、その上にアーミーシャツを羽織った
“出撃態勢”のパートナーの姿だった。

「どこに行く気だ」
「決まってるでしょ、撩をこんな目に遭わせたんだもの
それなりの落とし前をつけさせに行くだけよ」
「やめろ」

とだけ言うと、撩はがっしりとした腕を伸ばし
あたしの手の中のローマンを奪い取った。

「だって、パートナーじゃない!」

槇村香に手を出すのは
シティーハンター本人に勝負を挑むこと、
それがもはや裏の世界の常識として広まっていた。
だったら撩が傷つくのは
あたし自身が傷つけられるのと同じ
パートナーとしてあたしには撩の仇を打つ
権利があり、そしてそれは責務でもある――
理屈ではそうかもしれない、でもそれを
撩は許してはくれなかった。

「このローマンは、お前の身を守るためのものだ
それ以上でも、以下でもない」
「でも――」
「それにこれくらいのケガ、俺にとっちゃかすり傷だよ
お前が出ていくほどのものじゃない」

そう余裕の笑みを浮かべるが、撩の表情に
あたしも一緒になって笑うことができなかった。

自分の身を守るといっても、それすらできないのが今のあたし
結局、撩に守られてばかりだった。
あたしの周りにいるのは皆、自分に振りかかる火の粉を
自分の力で払いのけることができる、強い女性ばかりだ
冴子さんといい、美樹さんといい――

しかも、今回のケガもそもそもは
麗香さんが引き受けた厄介な仕事に
巻き込まれたのが原因だった。

――撩は、あたしだけの撩じゃない。
彼の周りには、あたしなんかより
強くて、美しい大勢の女性がいる。
だからあたしなんか――
そう劣等感に捉われる一方で
何とか彼女たちに追いつこうと
自分なりに努力は続けているつもりだ。
でも、そんな努力も撩は否定する
お前は自分の身を守れれば――守れなくても――いいと。

「心配するな、何があっても
お前は俺の大切なパートナーだ」

まるであたしの心の中を見透かしたように
銃を持たない方の手をくしゃりと頭の上に置いた。
でもその言葉を、今のあたしは
素直に受け取ることができなかった。