2015-01-01から1年間の記事一覧

天才と秀才と凡人と

あれから、冴羽さんが銃を教えてくれるようになったと 香さんが言う、嬉しそうに。 でも相変わらず、うちに来ては射撃場で わたしに習う回数は前とは変わっていない気がする。「体に力入ってきてるわよ。 そう、肩の力を抜いて少し前屈みに」言われたとおり…

1985.3.31 Sun.

「あ、おはようアニキ」 「おはよ……って、朝飯お前が作ったのか?」普段の槇村家の朝食は由緒正しきご飯なのだが 日曜だけは洋風にパン食になる。 もっとも、トーストだけでは足りないので ゆで卵か目玉焼きに、ハムなどの簡単な付け合せもつく。「今日ぐら…

1985.3.30 Sat.

「――おい、こんなところで寝てると 風邪ひくぞ」 「あ、アニキ、おかえり」深夜近い帰宅だというのに、妹はというと 風呂だけはしっかり入ったのだろう パジャマの上にカーディガンを羽織っただけという 無防備な姿で、玄関から入ってすぐの ダイニングテー…

1985.3.29 Fri.

香は助手席でずっと時計を気にしていた ダッシュボードのと、自分の左腕のと。 車の時計は狂いやすいとはいうけど それだってほんの数分の誤差だ、大した違いはない。 そして、その両方ともが0時直前を指していた 金曜から土曜に変わるか、変わらないかだ。…

1985.3.28 Thu.

知られてはいけない、彼とのことは 私が彼に友人以上の感情を抱いていることは 彼もそれに気づいたうえで、憎からず思っていることは そして、こうして彼と二人電話で 話し込んでいることも――《よぉ、冴子》帰宅早々、かかってきた電話は彼からだった。《毎…

1985.3.27 Wed.

10:00 新宿中央公園 といってもこの公園は広さ8万8000Km2(だそうだ) 待ち合わせようにも「中央公園のどこそこ」と 伝えておかなければすれ違いが生じかねない。 だからあたしが言ったのは 「噴水の前の階段のところ」。あいつを呼び出すんだったら、新宿…

1985.3.26 Tue.

警察にいた頃は、修羅場愁嘆場に 居合わせるのは日常茶飯事だった。 この時期は特に、学校が休みに入るから 全国から家出少年少女が東京へ 新宿へと押し寄せてくる。 そうでなくても夜ごと歌舞伎町の道端に 屯(たむろ)している未成年の常連もいた。 そんな…

dual desire

「あー、満腹満腹」店から出てきての香の第一声は 俺の予想しないものであった。 それは、あいつが普段は着ないワンピースに ハイヒールに化粧までして 耳元にはスイングタイプのイヤリングを キラキラさせているからだけではなかった。 これが俺か依頼人か…