他キャラ
――ぎゃあ、ぎゃあ 赤ん坊と“聞き紛う”ような声が外から響く これが本物の赤ん坊ならどれだけ良かったことか だが春先のこの時期はそうではない。 それがいつもの猫の鳴き声以上に俺の嫌悪感を掻き立てるのは 天敵が今以上に殖える合図だから、というだけでは…
日本の男性とアメリカ人との違いはいろいろあるけれど そのうちの一つが「男子、結構厨房に入る」ということだろう。 ハリウッドのロマンティックコメディでは、よく 男女がキッチンで並んで一緒に料理を作るようなシーンがあるけれど それが私たちカップル…
ニワトリが先か卵が先かという喩えがあるが 言葉に関して言えば、その言葉が指し示す 物なり現象なりが先にあって 後追いでその名がつけられる というのがほとんどだろう。なので「マリッジブルー」という言葉が生まれる以前から 結婚を前にした男女はあれこ…
「じゃあ、そろそろ記念撮影するか」と撩が言えば宴はお開きの合図。「おいおい、それで撮るのかよ」奴が構えたのは携帯電話で、「だったらこれ使え」そう言って俺が手渡したデジカメは 四角くコンパクトなお手軽タイプ。 だったら最近の携帯と 機能としては…
RN探偵社の社長として、調査員の採用も大切な仕事の内だ。 もともとは私一人の個人商店だったけれど 依頼が増え、自分だけでは回し切れなくなって 3人、4人と従業員を増やしていった。 おかげで今では拠点をここ新宿以外にも増やそうかという勢い そのた…
まさか彼に美術鑑賞の趣味があるとは思わなかった。 槇村が刑事を辞めて、私は警察に残り FBIでの研修のために渡米し一年。 帰国後、初めての“デート”がここだった。「君ならこういうのは好きだと思ったんだがな」と、私の目を見ようともせず 壁にかかっ…
うちは一応喫茶店だけど、開店時間は かつてのもう一つの仕事柄、それほど早くはない。 ファルコンもときどき手伝いに駆り出される以外は そっちの方はすっかり引退状態ではあるけれど オープンはその頃のままだ。そして まだお客もまばらな時間帯、常連の …
恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人しれずこそ 思ひそめしか「あら、今日はまだ来てないわよ」店に入ってきたわたしを見るなり カウンターの向こうの女主人はそう言った 誰が来ていないかは省略して。「ち、違うわよ。わたしはただ ここにコーヒーを飲み…
慣れたところへなら自らハンドルを握るが 知らない道ならそうもいかない。 信頼できるナビがいないなら尚更のこと。 そうなると、自ずとバスや電車を使わざるを得なくなる。美樹には「近くじゃないなら白杖を 持ち歩いた方がいいんじゃないの」と言われるが …
一人暮らしで不便なことといったら 数え上げればキリが無いが 一番困るのは体調を崩したときだろう。 泣こうがわめこうが家にいるのは自分一人 己の看病は己でしなければならない。 ぬるまったアイスノンや汗をかいたパジャマを 取り替えるくらいならまだ何…
たまたま(寝汚い俺には)珍しく 開店直後の店に顔を出したからだろう ここにはずいぶん入り浸っているが こういう光景を見るのはこれが初めてだった。「ちわ〜っす」とプラスティックの大きなトレイ ――こういうところより、スーパーの バックヤードの方が似…
「なぁリョウ、お前、昔のこと 思い出したりするときってあるか?」金髪の腐れ縁が突然訊いてきた。 いつものようにさんざ飲み歩いて 最後に辿り着いたいつもの店で むさくるしくも男同士、肩を並べながら。 しかもカウンターの向こうは 頭は空っぽながら顔…
こういうのを“lucky break”というのだろうか 日本語でいえば……確か「ケガのコウミョウ」 これもまさに文字どおりの意味だ。ミス・ハヅキの依頼に乗せられ、亡命中の大統領なんて VIPの護衛に駆り出された挙句に 己のスイーパーとしての限界を突き付けられ…
また病室に逆戻り、か…… 今度は広大な和風建築の中にある 私設ラボ&クリニックというなどという変わり種ではなく ごくごく普通の総合病院、といっても 病室の中の景色はどちらも大差は無かった。“教授”と呼ばれる老医師のもとでの 治療とリハビリを耐え抜い…
パフェグラスにコーンフレークと アイスクリームを交互に盛りつける。 1すくい目をバニラ、2すくい目をチョコレートの アイスと味を変えるのがうちのこだわりだ。 中身がグラスの縁に届きそうになったら、これからが勝負だ。 大きく深呼吸をすると、傍らの…
「――○○××、○○××でございます」穏やかなコーヒーブレイクを一撃で破壊するウグイス嬢の美声。 まだ衆院や都議選と比べればマシな方だが (区議選となるとノイローゼになりそうだ) 参院でも東京都全域で31人も出ている。 まさに「犬も歩けば選挙宣伝カーに当…
「物足りん」とロックグラスのストレートを一息にあおるなり 彼はそう言い放った。そのグラスに さっきまでたっぷりと注がれていたのは 琥珀色の、ではなく透明な液体。 でもそれは、最近ではさほど珍しいことではなかった。ファルコンの愛飲する銘柄といえ…
「これでとうとうあたしも人のこと 言えなくなっちゃったわね」店のテレビで流れるニュースに そんな言葉が思わずこぼれた。「あれ、美樹さん新しいのにしたんだっけ」そんな半分独り言のようなあたしの言葉に 反応したのは、ほんの数ヶ月前 「人のことを言…
あれから随分経った。 ユニオン・テオーペの残党の中で最大勢力を誇った シンセミーリャを壊滅に追い込み、記憶を失い ユニオンを経てそこの幹部に納まっていた フェルナンド・ミナミこと槇村も記憶を取り戻し 冴子と7年越しの縒りを戻したのだが 世の中そ…
ナースステーションでのミーティングで 看護師長が口を開くことはほとんどない。 いつもは「それじゃ皆さん、今日も安全に気を付けて」と 毎日変わることのないお題目の後に解散となる。 ただ、今日は違った。「じゃあ最後に、最近気になった点をちょっと」…
「どうじゃったかの、広島は」土産物のメイプルリーフ形の和菓子をつまみつつ グリーンティーを喫しながら、正面の老人は問うてきた。「やはり‘Seeing is believing(百聞は一見に如かず)'ですね 行ってよかったと思います、これからこの国で 生きていくと…
【Caution ※ 注意!】 ブツブツしたものを目にするのが嫌いな方、苦手な方は 続きを読まないことをお勧めします! その症状が悪化ないしは固定化され こじらせてしまいかねませんので…… 事実、店主自身がそうなってしまいました【泣】
それは普段の、何てことのない外出でのことだった。「あらファルコン、いいわよ あたしが運転してくから」 「いや、かまわん」 「でも目が――」 「慣れた道だ。多少見えなくても判る」 「……はいはい、判ったわ あたしにはランクルのハンドルは触らせないのよ…
出先から帰ってくると郵便受けに何通か刺さったままになっていた。 仕方なく自分がそれを回収して、デスクで一通一通開く。 ダイレクトメールばかりだったらまだしも、こういう仕事をしていれば 名指しで封書が届くことも多々あって、その中には 訴状だった…
「ただいまぁ」 「おかえり。夕飯は?」どこの家でも帰宅時に交わされる、ありふれたやりとり。 でも、我が家が少し余所と違うのは 帰ってきたのが私で、出迎えるのは夫の槇村だということ。「もちろんおなか空かせて帰ってきたわ」 「空腹のところ悪いんだ…
仕事を終えて自宅兼事務所へ戻ると「よぉ」ドアの前にしゃがみ込んでいたのは 愛しの隣人だった。「どうしたのよいったい。何か用? 依頼だったら、ちゃんと正規料金取るわよ」 「んな大げさなことじゃねぇよ ただ鍵忘れて出てっちゃったんだよね。 それで帰…
参ったことになった、と思ったに違いないだろう。よりにもよって、警視庁特捜課のガサ入れに 居合わせてしまったのだ、警視総監の次女のわたしが。 しかも現場指揮官は当然ながら、あの長姉 来年の1月からは東新宿署の署長への栄転が 内々に決まっているそ…
カレンダーじゃ真夏のはずが、涼しい日が続き 雨降りも珍しくない今日この頃。 おかげで未だにホットコーヒーも 店の売り上げの中で結構な割合を占めている。 今日は幸いにも雨こそ降っていないものの 曇り空は相変わらずで、少々肌寒いくらいだ。 これじゃ…
それは何てことのない一本の電話から始まった。「えっ、うん、わかった。 なぁん、お母さんも気ぃつけられ」いつもと違う口調のカノジョが電話を切ると さっきまでのおっとりとした印象が一変した。「ミック、すぐ荷造りできる? それと富山までのチケット!…
「お父様、お父様!」夜もまだ明けやらぬうちに 末の娘が寝室に飛び込んできた。 手には古風な文のようなもの。「部屋の、机の上に、これが……」上の姉たちはみな嫁いで家を出ていったが この子もいつ縁談があってもおかしくない年頃だ。 なのに、この慌てぶ…