ラヴラヴ

もう負けないよ

相棒の成長は、組んでる側としても嬉しいことではある。 けど――「いやぁ、香ちゃんのおかげだよ」 「帰ったら香さんによろしく言っといてね」そんな声をあちこちで聞くたびに 無性に腹の中がもやもやするというか――今ではすっかり、出入りのヤクザを追っ払う…

ミモザの日

3月初旬、春まだ遠い風の寒さ 三寒四温のまさに「三寒」真っ只中 この調子じゃ1ヶ月後、本当に桜が咲いているのか 疑いたくなるほど、東京は冬を引きずっていた。 おかげでこっちは猫背をさらに丸めて歩く始末。 だが香はというと、美樹ちゃんと一緒に 『…

1993.12/Good Wives

街には木枯らしが吹き始め、冴羽商事もそろそろ 年越しの心配をし始めなければならなくなった頃 アパートにやって来たのは、いつものといえばいつもの だが珍しいといえば珍しいお客様だった。「香さーん、リョオー、いるー?」 「あっ、冴子さん。お久しぶ…

1994.1/Shirts on the skin

朝、といわず真夜中といわず 些細な物音で目が覚めてしまうのは 相変わらずの悪い癖。 今やベッドも俺一人のものではないのに。 あいつと結ばれて初めて迎える、冬の朝。香の朝は俺より1時間は早い。 朝食の準備だのゴミ出しだの洗濯だの 早くからやってし…

1994.11/Mommy Track

そろそろ、通りによっては吹く風に混じって 金木犀の薫りが漂ってくる季節だが 日が落ちると、それでも人通りの多い歌舞伎町ですら 人恋しいほどに寒さの募る今日この頃。 ここ最近は荒い風に当てないようにしてきた香を わざわざ寒空の下に引っ張ってきたか…

パートナー辞めますか、恋人辞めますか

依頼人が撩に惚れてしまうのは日常茶飯事だ というか、そうならなかったケースの方を 数え上げていった方が簡単なくらい。 だからいちいち目くじらを立てていたら 神経がいくらあっても足りたものではないし 人間、慣れというのは恐ろしいもので 彼女たちの…

衣通姫

「あ、撩」帰り道、アパートも近くなり辺りは繁華街から 都会の中の住宅地へと移り変わっていた。 晩秋と初冬のはざまのこの季節になると 日は早々と西新宿の高層ビルの谷間に隠れてしまう。 群青色の空の下、俺たちの足元を照らすのはまばらな街灯だけだ。…

1983.4/one-way girl

「かーおりっ、何見てんの?」3年生になって親友は春休み前と変わったような気がする。 最高学年になって、あるものは受験生となり 誕生日が来れば18にもなるのだから 何かしらの変化はあって当然かもしれないけれど、 彼女の場合、もともとボーイッシュな…

automatic wind

朝、半覚醒のまどろみの中、時計に手を伸ばすのが いつしか習慣になっていた。 香が誕生日に贈ってくれた自動巻きの腕時計。 受け取る前に壊されてしまったデジタルに比べて ずいぶん出世したものだ。俺の一挙手一動足をエネルギーに変えて回り続けるそれは …

gynandromorph

うちのおひぃさまは「虫愛づる姫君」であらせられるようで 夏になると近くの街路樹や小さな公園 さらにはちょっとした遠出になるが虫の宝庫である 戸山公園まで、網を片手に幼馴染みどもと駆け回る毎日だ。 もちろん、教授の屋敷は言わずもがな。 昨年なんて…

hymenoplasty

シティーハンターへの依頼は何も ボディガードやストーカー退治ばかりではない。 その裏稼業ゆえの人脈を目当てに、いわば素人さん相手に 新宿闇世界イエローページみたいな仕事を頼まれることもある。 例えばパスポートでも免許証でも何でもござれの腕のい…

(s)he

複数の言語をネイティヴ並みに話すことができると ときどき自分が何語で話しているか判らなくなってくるときがある。 もちろん、いつの間にか相手の知らない言葉で滔々と話しているなんて失態は 酔ったときでもやらかしたことはないが、今みたいに 相手も同…

想い想われ 振り振られ

自慢じゃないが、肌はきれいな方だ。 以前、デパートの美容部員さんにそう言われたから間違いない。 余計なものを塗っていないのが良いそうなのだけれど 普段すっぴんで通しているのは地肌に自信があるからというと 決してそういうわけでもない。 相棒兼師匠…

【R15】こんな雨の日

とかく雨の日というものは、テンションが上がらない。 香の誕生日は過ぎたものの、この時期は特に 『花散らし』『花腐し』などと風流な名の雨が降る。 その名のとおり、儚い桜の花びらは しとしとと降り続く雨に散ってしまうだろう。 まだ、春の嵐と言わんば…

【R15】家族になろうよ

あいつがもともと女らしい方ではないということは 俺自身、嫌というほどよく理解しているつもりだ。 二度目に逢ったときは最初は男と間違えるほどだったし それ以降もしばらく一人称は「オレ」だったくらいだ。 だからそういうことは端から期待しちゃいない…

Vintage

見慣れないしぐさに思わず目が釘付けになった。 外から帰ってきた撩が、ヒップポケットから 二つ折りの財布を抜き出したのだ。「あれ、あんた財布持ってたの」いつもポケットにじゃらじゃらと小銭を入れては そのまま洗濯に出していたから てっきりそんなも…

花鳥風月

リビングの窓から見上げれば、群青色の空に月が浮かんでいた。 下弦に近づきつつあるそれはすでに寝待月だろうか 東の地平線上にもビルが立ち並ぶこのアパートからでは 夜半近くにならないとその姿を拝むことはできない。 香は今日は夜の街に呼び出しをくら…