2016-01-01から1年間の記事一覧

リクエストナンバー#18

「バタバタしてて新年会やりそびれちゃったけど」 といつもの面子が集うのは、いつものCat's Eye……ではなくて そこは一次会、ただ今すっかり出来上がったメンバーが 狭い部屋の中で膝を突き合わせているのは 最近、歌舞伎町でも勢力を拡大しつつあるカラオケ…

わたしの扶養家族

出先から帰ってくると郵便受けに何通か刺さったままになっていた。 仕方なく自分がそれを回収して、デスクで一通一通開く。 ダイレクトメールばかりだったらまだしも、こういう仕事をしていれば 名指しで封書が届くことも多々あって、その中には 訴状だった…

友を選ばば……

「りょう、おい撩」誰だ、こっちは気持ちよくお休み中だというのに こうして肩を揺さぶる手が美人の 白魚のようなそれならまだしも、少々華奢とはいえ 感触は明らかに男ものだ、見なくても判る。 そしてその声も、鈴を転がすようなソプラノではなく 陰気なバ…

behind your smile

外から聞こえるのは時折車の通る音くらい 静かな部屋に、ただチクタクと秒針の音だけが響く。 その出元を見遣る。すでに「草木も眠る丑三つ時」を過ぎていた。 「眠らない街新宿・歌舞伎町」とはいえもうこの時間では 大抵の店はすでに閉まっているというの…

SKULL LEADER

平日も休日も、正直なところ この店には関係なかったりする。 もちろん客層は異なってくるけれども 「いつもの面々」に関して言えば相変わらずで もっとも、その半数以上がカレンダーどおりには いかない仕事というのもあるけれども。一方、カレンダーに雁字…

教育的配慮

この仕事は依頼人を家に泊めることも多い というかほとんどだ。だからひかりが生まれてからは そういうときは、あの子を美樹さんや教授のところに 泊りがけで預けて面倒を見てもらっていた。 でも今はケースバイケース、さほど危険が無さそうな場合は 家でひ…

1994.1/Shirts on the skin

朝、といわず真夜中といわず 些細な物音で目が覚めてしまうのは 相変わらずの悪い癖。 今やベッドも俺一人のものではないのに。 あいつと結ばれて初めて迎える、冬の朝。香の朝は俺より1時間は早い。 朝食の準備だのゴミ出しだの洗濯だの 早くからやってし…

keep on Changes

レコード屋の店先には「全米チャートNo.1」との触れ込みとともに 真っ黒な星がひときわ大きく貼り出されていた、まるで喪章のように。 ――死せるスター、生けるファンを走らす、か。 いや、敗走させられたのはそんじょそこらの ぽっと出の自称スターかもしれ…

細腕&太腕繁盛記vol. 1 サイフォン

丸底のフラスコに、先の細くなったホーローのポットから お湯を注ぐ。その前に、ガラス容器を丁寧に布巾で拭って 水滴を取り去っておくのは忘れない。 アームに容器を掛け、その下にアルコールランプを置く。 そこに火を点けるのにマッチを擦る一手間が何と…