2012-01-01から1年間の記事一覧

Tom Boy or Nancy Boy?

まだ二人の間に秀弥くんが授かる前の話。所轄の署長という立場も、一課や特捜と比べたら閑職かもしれないけれど 一人の肩に背負い込む責任たるやそれとは比べものにならないもので いくら定時で上がれるとはいえ、退職したばかりの父に実家に呼び出され 拝聴…

as easy as a dog

公園デビュー、なんて言葉があると知ったのはいつぐらいだろうか。 おそらくまだその頃は、自分がその当事者になるなんて 夢にも思わなかったはずだ。 でも、まさかまさかの有為転変でこんなあたしでも ママになることができたのだけど、 公園の前にデビュー…

Exhibitionist

「あちゃ、氷作ってなかった」そう香が声を上げたのは、夜の11時も過ぎた頃。 家飲みのときは市販のロックアイスではなく 普通に冷凍庫で作った、白くくぐもった氷を グラスに5,6個まとめて入れている。 確かに雰囲気は出ないが、 「透明だろうが白かろう…

僕よりも僕のことを知っている

裏の世界No. 1スイーパー、シティーハンター・冴羽撩 その筋ではあたかも神のように呼ばれているが あいにく俺は神様ではない、ただの人間だ。 自分でも嫌になるような欠点もあれば、スランプだってある。リビングのガラステーブルの上に広げられたのは 武骨…

些細なきっかけ

槇村秀幸、25歳。この齢でsergeant(巡査部長)というのは 18で警官になったとしても、いや、だからこそ 出世の早い部類に入るらしい。 だが、その出世すごろくも今の階級で打ち止めだ。 やつは、今日、署に辞表を出してきた。「チキショーーっ、明日からど…

Good Night, Babies

あの小さかったひかりも3歳になって そろそろベビーベッドじゃ収まりがきかなくなってきた。 かといってうちの場合、諸般の事情から『川の字』とはいかず 贅沢ながら子供部屋に一人で寝かすことになったのだが、「じゃあ、行ってくるね」それ以来始まった、…

dog tag

そういえば、あいつの持ち物には軍用品が多かった。 ライターの中で一番愛用しているのは古いシンプルなジッポーだし ガレージのハーレーも第二次大戦中ではアメリカ軍で採用されていたものだという。 仕事で遠出するときに荷物を入れていく、頭陀袋としか言…

Top of the World

サプライズでどこかに連れ出すのはたいてい俺の役目だ。 普段出不精であまり新宿の外に出ない上に(そもそも外に出る必要がない) あまりパートナー孝行めいたことをしてこなかった分 たまの不意打ちでもあいつは充分喜んでくれたりする。 こういうときは自…

シティーハンターの敵

16:41 ターゲットを確認「じゃーねー」 「See you tomorrow!ってシュウヤ、 何でお前が帰りも一緒なんだよ!」 「しょーがねーだろ、最近二人とも忙しいんだから」校門で同級生と別れる。 女子生徒一人と一緒に新宿駅方面へと向かう。 ターゲットの自宅は…

out of sight

ここCat's Eyeは純然たる喫茶店で夜の営業はやっていないけれど 何事も例外というものはある。ただし貸切なのだけれど。 男どもときたら――うちのファルコンは別だけど―― とかくパートナーを放っといて夜の街で羽を伸ばしたがる。 女だってこの世知辛い世の中…

女子力のカケラ

女の子は砂糖菓子で出来ている、なんて言葉がある。 確かに、あんこが嫌いな娘はいても 甘いケーキが好きじゃないという女子にはお目にかかったことはない。 もっとも、それは私の狭い交友範囲内に限ってのことだから そうといっても総ての女の子は甘いもの…

水道の水が不味かった頃

美味しいお菓子を頂いたからと、美樹さんと一緒に かずえさんのところに呼ばれたときのこと。 リビングはうちと同じように、Mick Angel Officeの応接間と兼用だった。「じゃあ好きなところに掛けてて。今コーヒー淹れるから」喫茶店のママに出すのも恥ずかし…

【R15】こんな雨の日

とかく雨の日というものは、テンションが上がらない。 香の誕生日は過ぎたものの、この時期は特に 『花散らし』『花腐し』などと風流な名の雨が降る。 その名のとおり、儚い桜の花びらは しとしとと降り続く雨に散ってしまうだろう。 まだ、春の嵐と言わんば…

at stated period

喫茶店の主なんてものは、三度の飯よりコーヒーが好きなものだと思っていた。 豆のブレンドがどうの、焙煎がどうのと誰もが一家言あるのだから。 なので、客といっても私しかいない昼下がり カウンターの奥で彼女が、普段使いのカップに ティーカップから何…

家内安全

「やっぱり車で来た方がよかったかしら……」キャリーケースが砂利の上を転がるたびに立てる 文字どおりじゃりじゃりという音が 神域の静寂を破っていることは百も承知だ。 だが、車で来るにしてもどうせ一人旅 ハンドルを握るのは当然私しかいない。 それも、…

All the Perfume of Arabia

「リョオ!ちょっと、これ何?」もうそろそろ真夜中といってもいい頃、なんて俺が言える義理でもないが あいつにしては珍しく時間をわきまえずに大声を立てた。「何って、ジーパンだけど」すっとぼける。「判ってるわよ、そんなの。あたしが訊きたいのは――」…

【R15】恋の季節

ぼんやりとお昼どきのニュースを見ていたら 個人的にちょっとがっかりな話題が流れてきた。「えーっ、今日行けばよかった」上野のパンダの公開が再開されたという。 行ってきたのだ、昨日、動物園に。8割方パンダを目当てに。上野動物園に再びパンダがやっ…

thirty years after

ふっと思い立って街に出た。今日がちょうどその日だったから。 毎日通う伝言板のある新宿駅を抜けて西口、中央公園に。 高層ビルのふもとに広がる緑は、近くのオフィスに勤める サラリーマンやOLさんたちの憩いの場であり、 それに紛れるように接触の場に…

Off-white Day

ホワイトデーだからといって仕事は仕事 どこかの誰かさんみたいに浮かれてなどいられない。 社長兼調査員1名だけの零細探偵事務所 たかが浮気調査でも全社挙げての大仕事だ。 マルタイが予想の時間になってもホテルから出てこなかったうえ 明日は別の案件の…

二匹のハリネズミ

ココロとカラダというものは二つで一つであり どちらか一方無しではもう一方は立ち行かない。 こんなことは当たり前の事実かもしれないが ときに人はその『事実』すら自分たちの都合のいいように歪めてしまう。 例えば、浮気男の言い訳 心の底から愛してるの…

【R15】家族になろうよ

あいつがもともと女らしい方ではないということは 俺自身、嫌というほどよく理解しているつもりだ。 二度目に逢ったときは最初は男と間違えるほどだったし それ以降もしばらく一人称は「オレ」だったくらいだ。 だからそういうことは端から期待しちゃいない…

雪の日の歩き方

昔、雪景色を見ても何とも思わなかった。 わたしが生まれ育った街では冬、雪に埋もれるのが当たり前であり おそらく近所の飼い犬も喜んで庭を駆け回らなかっただろう 祖母が飼っていた猫はこたつで丸くなっていたけれど。 でも今、こうして東京に降る雪を眺…

おひとりさま上手

こう見えて、どんな相手とでも巧くやっていけるのはあたしの数少ない特技だ。 普通の同年代の女性はもちろん、歌舞伎町のキャバ嬢 二丁目のオネェさまがた、そして泣く子も黙るおヤクザさんたち どんな席にも溶け込んで、気がつけば差しつ差されつになってし…

Madame/Mademoiselle

「聞いたぜぇ、ブロンド美人に振られたんだって?」その話を聞きたいがために、歌舞伎町中を探し回ったのだ。 同じくブロンドの悪友は顔も見られたくないと視線をそらす。 隠そうとした頬には今も真っ赤な手のひらの跡が残っていることだろう。「そりゃあな…

1994.2

ここに足を踏み入れたのは、いったいいつ以来だろうか。「いらっしゃいま――、あら、お久しぶりですね」そう言われて、あの頃のように余裕一杯で微笑み返すが 内心は当時とは全く正反対だ。 虚勢を張って、それがバレやしないかとびくびくしている。 ほら、あ…

Vintage

見慣れないしぐさに思わず目が釘付けになった。 外から帰ってきた撩が、ヒップポケットから 二つ折りの財布を抜き出したのだ。「あれ、あんた財布持ってたの」いつもポケットにじゃらじゃらと小銭を入れては そのまま洗濯に出していたから てっきりそんなも…

Saving All My Love For You

歌姫が死んだ。 死因については未だはっきりしたことは判っていないが 状況からしておそらくオーヴァードーズ(薬物の過剰摂取)だろう 彼女の元夫も、そして彼女自身も薬物常用の過去があったのだから。テレビの追悼ニュースでは必ずバックに数々のヒット曲…

NOISE

「どーしたんだよ、その大荷物」コーヒーを飲みながら優雅に一服していた撩が 駅の伝言板から帰ってきたあたしを見て目をまん丸くした。サエバアパートはいわゆるポスティング業者にとって恰好の餌場のようだ 外玄関を入ってすぐにずらりとポストが並ぶ そこ…

花鳥風月

リビングの窓から見上げれば、群青色の空に月が浮かんでいた。 下弦に近づきつつあるそれはすでに寝待月だろうか 東の地平線上にもビルが立ち並ぶこのアパートからでは 夜半近くにならないとその姿を拝むことはできない。 香は今日は夜の街に呼び出しをくら…

Shotgun Marriage

Cat'sが他の喫茶店と違うのは普段はテレビをつけっぱなしにしていないところだ。 BGMはマスターの趣味のクラシック(相当枚数を持ってるらしい) それが会話を邪魔しない程度に控えめに流れているから 落ち着いた雰囲気でコーヒーとおしゃべりを楽しめる…