ビター

SKULL LEADER

平日も休日も、正直なところ この店には関係なかったりする。 もちろん客層は異なってくるけれども 「いつもの面々」に関して言えば相変わらずで もっとも、その半数以上がカレンダーどおりには いかない仕事というのもあるけれども。一方、カレンダーに雁字…

TONIGHT

相変わらずの不夜城の喧騒の向こうから 除夜の鐘が響く夜。 公共放送の国民的歌番組の決着ももはや付き 画面は各地の年越しの風景を映し出していた。 テーブルの上には、残り少なくなった とっておきのバーボンとアイスペール そしてショットグラスと背の高…

prophetic dream

「どうしたんだ撩、朝からそんな顔して 昨夜は飲み過ぎたか?」と、朝も早よから“出勤”してきた相棒に たしなめられるのはいつものこと。 ただ、不快感の理由だけはいつもと違っていた。「違わい。夢見が悪かっただけだ」 「夢だって?」いつも冷静沈着とい…

1991.12/Demon laughs

年の瀬も押し迫る頃となれば、歌舞伎町は 街全体が毎日忘年会といった様相を呈してくる。 そこのあの店この店に毎晩どこかしらから呼ばれて 年忘れの酒にありつくというのが年中行事だが 今年は少々様子が違った。 俺はというとそっちのけで、宴の主役の座は…

1990.4.16/永遠の美女

北鎌倉なんて鄙びたところは俺たちには縁の無いと思いきや シティーハンターの名前というのは、案外 上流階級なんて呼ばれる連中の間の方に むしろよく知れ渡っているようだ。なので今日は その一員たる依頼人との顔合わせのために わざわざ新宿を離れ、ここ…

1992.11/He Stroops to Conquer

「ただいまぁ」 「おかえり。夕飯は?」どこの家でも帰宅時に交わされる、ありふれたやりとり。 でも、我が家が少し余所と違うのは 帰ってきたのが私で、出迎えるのは夫の槇村だということ。「もちろんおなか空かせて帰ってきたわ」 「空腹のところ悪いんだ…

モンスター・パレード

ハロウィーンなんて海の向こうのお祭りだと思ったら 最近やけに急に日本でも定着した感じがある まるで節分の恵方巻きみたいに。 もっとも、イベントごとに目の無い『夜の街』方面では ミーハーな堅気が飛びつく前からすでに定番と化していた。 キャバクラな…

素敵な片想い

仕事を終えて自宅兼事務所へ戻ると「よぉ」ドアの前にしゃがみ込んでいたのは 愛しの隣人だった。「どうしたのよいったい。何か用? 依頼だったら、ちゃんと正規料金取るわよ」 「んな大げさなことじゃねぇよ ただ鍵忘れて出てっちゃったんだよね。 それで帰…

too heavy to love

ジャーナリストという商売はfrom 9 to 5というわけでないから これといって何も起きていない平和な午後に Sweetheartの顔を覗きに行っても特に責められるわけではない。 その代わり、一たびフウウンキュウをツげれば たとえ結婚記念日でもヨウチアサガケは当…

violation of compliance

参ったことになった、と思ったに違いないだろう。よりにもよって、警視庁特捜課のガサ入れに 居合わせてしまったのだ、警視総監の次女のわたしが。 しかも現場指揮官は当然ながら、あの長姉 来年の1月からは東新宿署の署長への栄転が 内々に決まっているそ…

活躍したくない1/100,000,000

広げた夕刊の見出しに毒づいたのは 警視庁で「女性初」の肩書を ことごとく掻っ攫っていった 変わらぬ美貌のエリートだった。「なぁにが『一億総活躍』よ。 女だけじゃまだ飽き足らないっていうの?」といっても、まさに彼女こそ 「女性活躍社会」の先駆けと…

1995.5/ファースト・コンタクト

これは純粋に自分のエゴだったのかもしれない。 香に子供が生まれるのに合わせて育児休暇を取った 当然、自分の子でないにもかかわらず。 自分の息子の世話も妹に任せきりだったのだ。 いくら彼女にとって可愛い甥であっても 初めての我が子だ、しばらくは水…

嘆き

愛せらるるは薔薇の花 愛することは薔薇の棘……たった4行しかない一編に目がとまった。 古びて紙も色褪せ、めくるたびに指先の脂が 吸われていきそうな古い詩集。 「勉強部屋」の書棚から見つけたものだった。あいつが求めて手に入れたのか 人から貰ったもの…

黄色いバナナの黒歴史

「あっ、安いじゃない」とスーパーの野菜・果物売り場で 手に取ったのは1房のバナナ。 我が家には家でごろごろしては しじゅう腹が減ったとのたまわく穀潰しがいる。 でもバナナだったらけっこう腹持ちがいいので 小腹程度だったら充分満たせるはず、と 見…

健康のために死ねますか?

「はぁ、どうしたものかしら」溜息。手には一枚の紙切れ。 目の前には昼間っからソファに寝転んで のんびりくつろぐ我が家の宿六。久しぶりに教授のところに顔を出し ついでにかずえさんと話し込んでるうちに 「ああ、そういえば」と手渡されたのだ。 撩とあ…

ファースト・バイト

なんてもん、いつから日本でやり始めたんだ? あの悪名高き「ほぼ発泡スチロールのウェディングケーキ」は 式場から姿をほぼ消したものの、それに代わる見せ場として この欧米生まれの風習がこっちでも定着しつつあった。 だが「花嫁を一生食うに困らせない…

天才と秀才と凡人と

あれから、冴羽さんが銃を教えてくれるようになったと 香さんが言う、嬉しそうに。 でも相変わらず、うちに来ては射撃場で わたしに習う回数は前とは変わっていない気がする。「体に力入ってきてるわよ。 そう、肩の力を抜いて少し前屈みに」言われたとおり…

dual desire

「あー、満腹満腹」店から出てきての香の第一声は 俺の予想しないものであった。 それは、あいつが普段は着ないワンピースに ハイヒールに化粧までして 耳元にはスイングタイプのイヤリングを キラキラさせているからだけではなかった。 これが俺か依頼人か…

never make you cry again

それは何てことのない一本の電話から始まった。「えっ、うん、わかった。 なぁん、お母さんも気ぃつけられ」いつもと違う口調のカノジョが電話を切ると さっきまでのおっとりとした印象が一変した。「ミック、すぐ荷造りできる? それと富山までのチケット!…

晦日の月

情報交換、という名の逢瀬が今の自分にとって 日々の生活の中で一番待ち遠しいものだった。 それくらい、彼のいない毎日はつまらないものだったし 会って他愛もない話をするだけで心が浮き立った。でも、少なくとも今日の彼はそうではないようだ。「あら、ど…

need not to know

「お前、香の気持ちは知ってるんだろう」タコ坊主に言葉尻を捉えられた。「知ってるも何も、当然だろ 『こんなバカ男、馬に蹴られて死んじまえ』ってな」「冴羽さん!」「残り四感」が鋭い海坊主ならともかく 美樹ちゃんもお見通しだったとは。 もちろん「仕…

I Hate You

「もう、あんたなんか大っ嫌いっ!」と、捨て台詞とともに振り下ろされる捨てハンマー。 どちらの方がダメージが大きいか、一目瞭然だろう ずきずきと痛むハートは心疾患でもなければ 肋間神経痛でもないはずだ。 その痛みと背中に圧し掛かる重みを堪えつつ …

corkscrewed

あいつが帰ってきた、ぐでんぐでんに酔っぱらって というのはいつものこと。 まるで背骨を失くしてしまったように 床に伸びているあいつを、肩に抱えて 引きずるようにして部屋へと連れて行くのも。 ただでさえの大男なのに、全身の力が 抜け切ってしまった…

恋の奴隷

依頼人との打ち合わせは済んだものの 話ばかりで出されたコーヒーは手つかずのままだった。 ぬるくなってしまうと美味しくなくなってしまうが 残すのも勿体ないと口をつけたところ 猫舌のあたしにはちょうどいいくらいになっていた。 とりあえずこれを飲んで…

Chronicle of 2013:9.17

いったいいつの間にベッドから抜け出しやがったのかと 思ったら……いた。リビングのテレビの前。 そりゃ昔は俺の腕の中から抜け出そうと思ったら 返り討ちにしてあと2,3時間はシーツに縫い止めてたさ。 でもそれは女を覚えたてのガキみたいに夢中になって …

これ以上ない悪夢

目が覚めたとき、そこが薄暗いことに心から感謝した。 豆電球とブラインドの間から洩れる遠くのネオン いつもは真っ暗だと怖くて眠れないくせに 今は明るい方が怖かった、こんな真夜中 さっきまでの夢の続きのような気がして。「どうしたんだ、ひどくうなさ…

1995.7/nothing but love

「はぁっ、これで一安心よね」店で流していたFMの合間のニュースに 子連れの常連客が安堵の溜め息を漏らした。「そうねぇ……」 「だってウチの場合、他人事じゃないもの。 もしミックの身に何かあったとき 子供抱えた女が乗り込んで来てみなさいよ。 まして…

cat person, but...

「やーん、かわいい〜♪」と相好を崩しているのはもちろん撩ではなく「このまま持って帰りた〜い!」無論、その対象がいわゆる「もっこりちゃん」であるはずもなく「だったら買っちゃえばいいのに」 「それができないからここにいるんですよぉ、香さん」ゲー…

1995.5/いらかの波と

こどもの日、古い言い方をすれば端午の節句でも こうビルが立ち並ぶ都会では鯉のぼりどころではないと 旧友がぼやいていると、仲間内では唯一の一戸建ての 元傭兵の喫茶店主が太っ腹にもポールを貸し出すと言ってきた。 おかげでCat'sの頭上には鯉のぼりが3…

white lie/black truth

「もぉ、しっつこいわねぇ!」と、今日ももっこりちゃんとのキスを夢見たはずが なぜか固いアスファルトとキスする羽目になるばかり。 にしてもバッグのラリアットってのは反則でないかい? あの大きさから衝撃は予想できたが、実際はそれ以上だった いった…